アイネ・クライネ・ナハトムジークが愛される理由。今回は弦楽器の響きの面からお伝えします。ドレミや調性の話しですが「ふーん、そうなのね」と思って頂ければ幸いです(前回の記事はこちら)。
まず、ヴァイオリンがよく響く調として知られているニ長調。その音階はドレミでいうと”レミファソラシドレ”です。で、この曲はト長調”ソラシドレミファソ”で書かれていて、ヴァイオリンではト長調も非常によく響きます。この響く、というのはどういうことかというと、言葉ではちょっと分かりにくいため図解をご参照ください。
楽器の特性を活かした響き

ヴァイオリンの開放弦の音です。

※〇印が個性的なのは筆者のPCスキルによるものです。ヴァイオリンと違ってなかなか上達しません。
これは、ト長調の音階の中でヴァイオリンの開放弦の音に印をつけたものです。赤で囲んでいる音が開放弦の音。基本的に、開放弦の音はどの高さでも鳴りやすい。ソならどの高さのソでも開放弦が共鳴しやすいのですね。弦が共鳴するということは楽器のボディも同じように鳴り、響きが増幅します。しかも一番低い開放弦のソの音をバンバン使えるので音域も楽に広がり、弾きやすいのです。
この音階に和音の役割を加えてみました。

※アルファベットはトニック・ドミナント・サブドミナントの頭文字です。
音楽の文法はT→D→T、T→S→T、盛り上げたいときにはT→S→D→Tが基本です。ここでいうとソ→レ→ソというのが基本中の基本の文法なのですが、この曲冒頭の楽譜を見てみると、見事にT→D→Tとなっていることが分かります。(楽譜画像は見た目の印象を感じて頂ければ幸いです。)

10小節目はTであるソの和音で終わっています。11小節目はヴァイオリン2部でレ→ミ、シ→ドの旋律ですが、根音省略といってソの音が省かれている形です。省くことで軽やかな響きになるためよく使われる手法です。
ニ長調はお出かけの時間
ところで、ヴァイオリンがよく響く調はまずニ長調でした。このト長調の中でニ長調がどう関係があるかというと、Dの和音はニ長調の主の和音なのですね。音楽の文法で、TからDにいくとそのままDでしばらく遊んでいることがあります。お外に遊びに出かけるようなものですね。あれ?お出かけするってとても楽しい、この楽しさを満喫しよう!人生のメイン目的はお外で遊ぶことにある!そして最後帰ってきて良かった良かった、今日もお布団入ってよく寝ましょ、というのが基本的な作りです。晴れもあれば曇りの瞬間もある、このお外で遊んでいる時間がよく響くのは良いことですね。

先の部分のスコアです。左ページ2段目あたりからニ長調へと移り変わっています。
では、ヴィオラ・チェロはどうなのか。

ヴィオラとチェロの開放弦の音です。
全部、ト長調の中にある音です。このドの音はト長調におけるSでした。これはハ長調の主の音でもあります。
ハ長調の音階にヴィオラ・チェロの開放弦の音を印をつけたのが以下の図です。

ニ長調がお外で遊ぶことだとしたら、ハ長調はお出かけ前の準備でしょうか。ワクワクする感じ。この曲ではこの準備の時間はわりあいサラッと通りすぎてしまいますが、気持ちとしてはワクワク感は変わりません。こういったところで響きやすいことも人を選ばないという感じがします。テーマはこの上なく分かりやすく良い音が出やすいとはなんて素晴らしいことなんだ……!
ちなみに、この曲はヴァイオリン・ヴィオラ・チェロの弦楽四重奏での演奏も多いのですが、コントラバスが加わるときは調による影響というより空気そのものが濃く振動してくる感じがします。その濃さはまるで秋の山の美味しい空気……!前回、この曲のテーマは塩むすびのようだとお伝えしましたが、山頂で頬張る塩むすび、シンプルで一番旨いこの季節の醍醐味とも言える書き方、そこに徹底できるのがモーツァルトという天才なのです。くぅ~っ!食べたいなぁ!こんな旨いものはみんな大好きに決まっている!ところで、今回は調や楽器の特性からお伝えしましたが、実はモーツァルトには”演奏上の難しさ”がてんこ盛りにあります。これに触れたら二度と平穏には戻れないので、それはまた違う機会にお伝えしましょう。ご感想もお待ちしております。お問い合わせページからぜひお寄せくださいませ。
楽譜出典
Eine kleine Nachtmusik, K.525 (Mozart, Wolfgang Amadeus)(IMSLP)
※記事中の楽譜画像は解説のため一部を抜粋し、筆者が加工しています。
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