Your Orchestra
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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか①
梅雨に入りましたね、これぞニッポンという空気のような気が致します。このジメジメの今にお伝えしたい音楽、それはメンデルスゾーンです。メンデルスゾーンと言えば爽やか優美な調べ。その洗練された雰囲気の理由はなにか?交響曲第3番『スコットランド』より第1楽章テーマを紐解きながらお伝えします。今回も音源と楽譜画像と共にお楽しみください。演奏は筆者のヴァイオリンとPCソフトのピアノの音です。今回のテーマ、それは”半音の使い方”。
ではこの曲のテーマをお聴きください。冒頭のヴィオラが奏でる旋律は実はここはまだ序奏の部分、なので本当の意味でのテーマはそのあとで出てきます。ですがまずヴィオラのテーマから。
ヴィオラのテーマですがヴァイオリンの音域でもあったので筆者が演奏しています。
それでは、序奏が終わった本編のテーマ。
ほんのりとした切なさ。個人的にはソロを弾くよりこういった音楽のほうがより気を遣います。下の譜面画像にあるスラーやスタカートも全て音楽の一部で音符と同じくらい大切な要素だからです。
どことなく似ている雰囲気がしませんか?楽譜画像をご覧頂きたいのですが、まずヴァイオリンが弾く本編のテーマ。これがこの曲の主役であり、序奏では簡素化してあります。見た目もヴィオラのほうがゆったりとして見えますね。もしかしたらメンデルスゾーンはこの序奏をオペラの序曲のように考えていたのかもしれません。オペラの序曲というのは作中に出てくる要素をてんこ盛りにしたまるで作品紹介のように書かれることが多いのですが、それを思い起こさせるような雰囲気です。序奏と本編は別の旋律のようでいて、実は同じ種から生まれたもののように感じられます。

ヴァイオリンが奏でるテーマ。主に半音とアルペジオで書かれています。

ヴィオラのテーマ。パートの中で2つの旋律を奏でるように書かれています。
このヴァイオリンとヴィオラでは音部記号が異なりますが、音楽の流れが重なるところを記してみました。赤丸で囲んだ箇所が重なる部分です。

メンデルスゾーンの楽譜は美しいのですが、私の丸は少々個性的です。
左から1つめの赤丸は”ミ”の音。その次の囲んでいない音は”ファ”。この旋律は揺れ動く半音から始まります。そしてこの始まりがこの曲全体の種になっているのではと思うのです。
そういえば、ヴィオラのテーマのあとに続くヴァイオリンの切なくも美しい旋律たちも半音だらけでした。

音符が階段を1段上がったり下がったり。半音って見た目にも揺れ動いています。
楽譜画像の中盤右のあたりAと書かれた箇所から弾いています。
この半音の動きはヴィオラのテーマとなんら関わりがないように見えて、実はそうではありません。この音源でちょうど30秒あたりは正にヴィオラの出だしと同じリズム。序奏の部分だけでここまで音楽を精緻に作りこむことができるのがメンデルスゾーンの天才たるゆえんですね。
普通は半音を多用するとちょっとねっとりとした絡みつくような印象になるものですが、それを切ないけれども重くない(なんだか恋愛談義のよう)使い方ができるのがメンデルスゾーンです。なぜそんなことができるのか?それはこの旋律を形作っているリズムとも大きな関係があります。そのリズムについては次回お伝えしましょう。かなりの大作ですので、メルマガとしてもなかなかの大作になりそうです。次回お届けは6/24予定です。
クラ・うら・俱楽部~ヴィヴァルディ『春』はなにゆえ明快なのか?②
前回”ほぼ私しか出てこない”とお伝えしたこの曲。今回は他の理由を見ていきます。これだけ明るいこの名曲、その明るさの秘密は1つではありません。では早速同時代の名作、バッハのヴァイオリン協奏曲第2番と比べてみます。以下の楽譜をご覧ください。ここでご覧頂きたいのは、音符を読むということより全体的な見た目の印象です。

ヴィヴァルディのスコア。ヴァイオリンからヴィオラまでほぼ同じ動きです。
ここでこの部分の演奏をお聴きください。前回も載せていますが、このスッキリ感やいかに。ヴァイオリンは筆者の演奏、伴奏はPCソフトのピアノの音です。
ではここでそのバッハ。

ヴィヴァルディに比べると見た目が複雑です。特にチェロバスだけ音階で駆け上っていたり。この見ためが音楽の動きそのものです。
ヴィヴァルディに比べると明るくはあるけれども、どこかあっけらかんとした何かが足りないような気がします。
私たちが使う言葉に譜面と書いて「ふづら」と読むものがありますが、これは正に譜面の見た目、顔のこと。まるで人間のようですね。この顔の印象がその曲そのものでもあるのです。ヴィヴァルディのほうはシンプルな見た目通り各パートの動きが揃っているということで、その単純さが明るさを増しています。
さて、ここでもう1つ大きな事情に触れましょう。それはどちらの曲もホ長調で書かれているということです。○○調というとクラシック音楽の理屈っぽい面でもあるので、やや専門的でもあるのですが、ここでは非常に大事なことなのです。
同じホ長調で書かれていながらヴィヴァルディの音楽は何よりも明快さがある。これは、ヴィヴァルディ自身が優れたヴァイオリニストであったことと、孤児院の学生たちにヴァイオリン演奏で身を立てられるようその人それぞれに合わせて曲を書き指導していた教師だったということ、正にヴァイオリンを知り尽くしたその生き様から生み出されたものでしょう。しかもこの1楽章は9割以上E線だけで弾きます。そのぶん音域が狭くなるので表現力が損なわれそうなものですが、この曲は素晴らしい。そんな曲他にないかも……E線と言えばヴァイオリンで一番高音の弦、また最もヴァイオリンらしい音が出る弦とも言えます。こんな書き方ができるところがさすが歴史的大教師。比べるとバッハのほうは同じ煌びやかな調でありながら、明るさには重きを置いていないようです。ちなみにバッハのヴァイオリンのためのホ長調の作品には無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番というものがあり、そちらは煌びやかな音色になるように書かれています。そのことについてはまた違う機会に取り上げましょう。
この記事でこの曲全体をお伝えするとかなりの長大な内容となってしまうので、敢えて冒頭部分にしか触れておりませんが、テーマというのはその曲全体を内包しているものでもあるので、その印象で作品全体を楽しんで頂ければ幸いです。次回は6月、ジメジメしてきているでしょうから爽やかな作品をお届けする予定です!
※今回全ての楽譜画像はIMSLP掲載スキャンより引用しました。https://imslp.org/
作曲家Tシャツを販売しております!1点ずつ受注生産にてお作りしております。

クラ・うら・俱楽部~ヴィヴァルディ『春』はなにゆえ明快なのか?①
季節は春5月ですね!今月はヴィヴァルディについてお伝えします。何と言ってもヴァイオリンと言えばヴィヴァルディ!と言っても過言ではないほど筆者も様々なところで演奏しています。「なにゆえヴィヴァルディは明快なのか?」筆者の演奏とピアノの音による特製音源と共にお伝えしますので音楽を聴ける環境でお楽しみください。(※ピアノはPCソフトの音なので良い音ではありませんがご容赦ください。)
ではまず冒頭部分をお聴きください。
かの有名なメロディですね!
まず理由として考えられるのは、このメロディの和声はほぼ”主和音”だけだから。和声とは和音の流れ、ハーモニーのこと。そして主和音とは曲が書かれている音階(この場合ホ長調ですね)の最初の音(主音)に付けられる和音を言います。
ではこの曲が主和音だということが分かりやすいように、ちょっといじってみます。メロディは変えずに伴奏のリズムを変えただけで音は同じです。
ほら、ずっと同じ和音、ミソシじゃない?たまにシレファが出てきます。主音というのは文章で例えると”私”のようなニュアンスかな?シレファは”あなた”です。だからこれって、ずっと「私」って言っているようなものなのですね。「わたし!私!ワッタッシ~、あらあなたもいたのね、わったし今日も楽しいな~!私のための良い天気!!」このくらい押しが強い”私”。ちなみに出だしのミの音が主音なのですが、実は主音から始まる曲ってそう多くない。なぜなら、これぞ王道といった雰囲気になるので少しお洒落な雰囲気にしようと思ったら違う音から始めるものなのですね。加えてクラシック音楽の基本形というのは、私→あなた→私です。そこに彼女や彼やあそこも過去も出てくるものなのですが、私しかほぼ出てこないこのメロディ。裏表がないとは正にこのこと。いわゆる四大ヴァイオリン協奏曲で1楽章のメインテーマが主音から始まるものはブラームスの協奏曲だけでした。
余談ですが、戦前のベルリンフィルコンサートマスターだったシモン・ゴールドベルグというヴァイオリニストがアメリカ人のことを「アメリカ人というのは私、私とうるさい。」とこぼしていたそうです。そういえば筆者もよく「私、私」と言っているそうですが、それは中学時代をボストンで過ごしたせいなのか、そうではなく生来の気性ゆえな気が致します……(きっと最近は控えめになっているはず、大人だから)。
でもこれだけじゃあ、この曲のあっけらかんとした底なしな明るさは説明できません。この続きは次回5/27にお届け致します!
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過去記事一覧
クラ・うら・俱楽部~ブラームス『大学祝典序曲』音源と楽譜で解き明かす“謎”②
【お知らせ】
現在、このメールマガジン内に掲載している音源および画像について、エラーにより正常に表示・再生できない不具合が発生しております。
現在、原因を確認し、復旧作業を進めております。
ご利用の皆様にはご不便、ご迷惑をおかけしておりますことをお詫び申し上げます。
復旧が完了しましたら、改めてユア・オーケストラFacebookページにてお知らせいたします。
何卒よろしくお願いいたします。
ブラームスが濃厚な響きを醸し出す理由、その謎について。前回ブラームスの音楽は”1つの小節の中に複数のリズムや拍子が混在する”とお伝えしました。今回はそれをもう少し見ていきましょう。楽譜画像は見た目の印象を感じていただければ幸いです。筆者の演奏とピアノの音による特製音源満載ですので音楽を聴ける環境でお楽しみください。(※ピアノはPCソフトの音なので良い音ではありませんがご容赦ください。)
まず、あの素敵な学生歌の部分から。楽譜でいうと129小節からです。ブレスラウ大学の裏庭でもこの歌が歌われていたのでしょうか、今の季節にピッタリな爽やかなメロディです。では原曲通りの弦楽器群をピアノの音で、第1・第2Vnは筆者の演奏です。ここでは管打楽器は割愛しています。
原曲通り~129小節から

楽譜では第1Vnを割愛しております。なぜならオブリガードといって飾りのような役割だからです。
※便宜上譜例には音符とタイ・スラー以外の楽語・記号等は記載していません。
ここでご注目いただきたいのはチェロの動き。楽譜ではそれぞれ上から3段目がチェロパートですが、まるで岩山のようにゴツゴツしているこの動き、これこそがブラームスの真骨頂とも言ってもきっと過言ではないでしょう。
変えてみました~129小節から

チェロパートをよくある動きに変えてみました。
ゴツゴツとした岩山がなだらかな丘のようになると、音楽の躍動感が減ってきているような印象があります。というのは、音というのは上がるにも下がるにもエネルギーが必要。物理と同じです。ヴァイオリンは指板で指を押さえたり離したりすれば音の高さは変えられる、けれどもその音が変わろうとしたときに自然と必要になるエネルギー・力を併せて表現する、そのエネルギーが減るとこの音楽からも躍動感が感じにくくなり、ブラームスらしさも損なわれてくるのでしょうか。
では、この先の「これぞブラームス!」と言うべき激しい箇所を見ていきましょう。楽譜でいうと269小節からです。画像では見やすさを優先しチェロパートのみ掲載します。
原曲通り~269小節目から

ところどころ休符の穴がありますね。それと後半はまた岩山!
第1Vnはかなり激しく弾くため、録音にも弓が弦をキシキシとこする音が結構入っています。これはホールでは聴こえない、でも演奏者の耳元ではこれが常に鳴っています。
チェロの出だしは実はこの曲のテーマのリズムです。以下はテーマだけを演奏した音声です。
このテーマをさぞかしただの伴奏のように用いて、しかも2小節目からは休符の穴ポコがある。この穴がまた要注意!それでは、これもよくある感じに変えてみます。
変えてみました~269小節目から

この楽譜なら初見で弾けそうですね。
うっかり落ちてしまいそうな穴ポコもなくなり岩山はただの石道、ずいぶん見通しが良くなりましたがそのぶんブラームスの誇りとも言うべき大切な何かを失ったような気がします。穴がないと伴奏もずいぶんと退屈になるものですね。それに見通しがいい道はなんだか単純。こんなのブラームスじゃない!(ブラームスじゃありません)。実はこの音源ではチェロだけではなくヴィオラやコントラバスも同じように変えています。
このことをユア・オーケストラでも演奏してくれたチェリストに聞いてみたら「やはりピアニストの音楽だよね」とのこと。ピアノの左手をそのままチェロに持ってくる(しかもブラームスはこういうことをよくやる)から弾きにくいしゴツゴツしている。でもそれがブラームスらしさに繋がっているのです。
前回お伝えした”1つの小節の中に複数のリズムや拍子が混在する”ということに加えて”音が1つの小節の中でかなりアップダウンしている”。いくつものリズムが百花繚乱のように咲き誇り、また縦横無尽なアップダウンで強いエネルギーが生じる、それが小節という小さい箱の中で同時に行われている。これがブラームスらしい濃厚な響きを醸し出しているのだと筆者は考えます。実際ヴァイオリンのパートを弾いていても他のパートにあるそれらのリズムや動きを意識するから粘るような音を出すイメージ。この粘っこさこそがブラームスの音楽とも感じます。
では、前回の最後にもご紹介したブロムシュテット氏による演奏でお耳直しをどうぞ。129小節3:23~、269小節6:07~頃からです。また本記事へのご意見、ご感想もお待ちしております。

筆者によるオリジナルデザインのクラシック作曲家Tシャツを販売しております。
クラ・うら・俱楽部~ブラームス『大学祝典序曲』音源と楽譜で解き明かす“謎”①
春爛漫、入学式のシーズンです。どこの音大でも入学式では学生によるオーケストラで新入生を歓迎する演奏が行われるようですが、筆者の音大でもブラームスやワーグナーの序曲、エルガー『威風堂々』などを演奏したものでした。ということで、今月はブラームス『大学祝典序曲』です。ブラームスといえば秋や冬の寒い時期の響きの濃厚なイメージ、日本の暑い時期の湿度には似合わないような。それはなぜだろう……ということを筆者なりに分析してみた全2回。筆者の演奏とピアノの音による特製音源満載ですので音楽を聴ける環境でお楽しみください。(※ピアノはPCソフトの音なので良い音ではありませんがご容赦ください。)
時はブラームスの円熟期、1880年。2つの交響曲を書き上げ、あの壮大なピアノ協奏曲第2番に取り掛かっている間、ブレスラウ大学から名誉博士号を授与されたことへの返礼として書かれました。大学への作品ということで当時流行していた3つの学生歌を引用し、彼独自の創作と共に非常に面白い作りになっています。かつて交響曲をなかなか発表できない心情を「ベートーヴェンという巨人が背後から行進して来るのを聞くと、とても交響曲を書く気にはならない」と友人に伝えていたという彼。しかしこの作品を聴くととてもそんな弱気な彼には見えません。短い中に彼の手法がギュッと連なり、芸術家としての自信に満ちあふれているような気がします。もうベートーヴェンの足音は聴こえなくなっていただろうな。
では、まず3つの学生歌がこの曲の中で登場する際のメロディをご紹介しましょう。ヴァイオリンだけで弾いています。
学生歌①
学生歌②
学生歌③
ブラームスによるテーマ
この4つのモチーフが作品の大きな要素となっています。特にテーマは大活躍、このリズムには要注意です。
それでは、本記事のテーマでもある「なにゆえブラームスは濃厚なのか?」について展開して参りましょう。
ブラームスの1つの特徴に”1つの小節の中に複数のリズムや拍子が混在する”というものがあります。例えば上記のようなシンプルな学生歌のメロディーの背後の伴奏にいくつものリズムがあったり、2拍子と3拍子が混ざり合っていたり。これは文字で解説するより聴いたほうが分かりやすいですね!
以下は98小節からの一節をいくつかのパターンで音源と楽譜にしてみました。まずは原曲通りの弦楽器群をピアノの音で、第1Vnは筆者の演奏です。ここでは管打楽器は割愛しています。
パターン①

チェロバスが小節線を超える際にタイでつながれていることにご注目ください!
※便宜上譜例には音符とタイ以外の楽語・記号等は記載していません。また97小節の3拍目までは休符としています。
パターン②
ピアノで聴いてもブラームスっぽさが伝わるかな?と思います。では、まずこのチェロバスをよくあるシンプルな動きにしてみます。

チェロバスの音符を減らし、タイもなくし小節ごとに音を変えてみました。
パターン③
では、第2Vnとヴィオラもよくある感じにしちゃって。

ヴィオラが大変身です!
どうでしょうか?2つめ、3つめといくとずいぶんブラームスらしさがなくなってきたような?なんだか音楽の流れも違いますね。
ここで行ったことは、上述の”複数のリズム”を減らしたことです。そして3つめは、こういった躍動感がある場面でよく用いられるリズム形を第2Vn、ヴィオラに入れてみました。ここで特徴的なのは、原曲はチェロバスが4拍目から1拍目までタイでつなげて弾いているということ。低音楽器は1拍目にドーンと構えていてくれると音楽が安定するものですが、前の小節という箱から次の小節の箱まで区切っていないのですね。こうすることで、推進力が出ます。第1Vn、第2Vn、ヴィオラもそれぞれ違うタイミングで音が長めだったり短くなったり。それぞれの違いが百花繚乱のように小節の箱の中で咲き誇っている場面です。この咲き誇り具合がブラームスならではの濃厚な響きを醸し出していると思うのですね。
さて、PCソフトという机上の論理で作られた音を聴かされてお気の毒ですから、ここで人類の至宝ブロムシュテット氏による原曲をお聴きください。上記の学生歌やテーマを探してみるのも楽しいですよ。聴いているだけでスコアが目に浮かぶような、素晴らしい演奏です。(学生歌① 1:39頃~、② 3:23~、③ 8:44~、98小節 2:35~です。)
次回も引き続きブラームスの謎に迫りたいと思います。4/29(水)配信予定です!
過去記事一覧
クラ・うら・俱楽部~ブラームス『大学祝典序曲』音源と楽譜で解き明かす“謎”①
クラ・うら・俱楽部~G線上のアリアの場合②~
前回は「G線上のアリア」の呼び方についてお伝えいたしました。今回は編曲による聴こえ方の違い、その妙についてお届け致します。ヴァイオリニストとしてまず思い至ることは、音程。この2つの編曲においては旋律の音程の取り方がまるで変わります。その大きな理由として
・旋律の役目がヴァイオリン一本になっていること
・バスがチェロとピアノで変わること
この2点が挙げられると思います。
それは、ヴァイオリンとピアノの場合は”ヴァイオリンが旋律、ピアノが伴奏”。そして管組は第1ヴァイオリンからチェロまで合わさった正に調和の世界で、旋律と伴奏というふうに単純に分けることができません。では具体的にどう変えていくかというと、デュオの場合は音程を旋律的にとっていきます。旋律的にとは、ほんの少し音程を高めにしたり低めにしたり……まるで塩加減のようにピアノに対してほんの少しだけ味をつけるかのように変化をつける。出だしの「ミ」の音は少しだけ高めにするのが筆者の定石、そうすることでG線一本で弾いたときにもそれぞれの音が饒舌に語りだすかのような表情をつけたいと、そう思います。もちろんヴィブラートは幅広め。

比べて管組のほうでは一番心掛けていることは他のパートと音が馴染むこと。溶け合う音程で決して音が際立たないように弾いていきます。そしてチェロ。チェロがどのように音楽を運んでいくか、弦楽四重奏でも演奏することが多い曲でもありますが、四重奏だと特にその「運び」はこの曲の命ともなる……!このことを音と言葉でも語らい合う満ち足りたリハーサルができたとき、初めてお客様にも得も言われぬような音をお届けできるのではないかな、と思います。
この「G線上のアリア」弦楽四重奏でしたらユアオケでも比較的開催しやすい曲でもあるので、早く皆様に指揮を楽しんで頂ける機会をご用意できたら、と考えております。トップページにユアオケの開催への道のりとその想いを記しておりますので、よろしければどうぞご一読くださいませ。
クラ・うら・俱楽部~G線上のアリアの場合①~
春ですね。今月のクラ・うら・俱楽部は、かのバッハ作曲『G線上のアリア』についてお伝えいたします。まずは軽く混乱を招く、その呼び方から。
この曲は元々管弦楽のために書かれた作品ですが、ヴァイオリンとピアノのデュオでも演奏します。G線とはヴァイオリンの一番低い弦のこと。ヴァイオリニストはドイツ語読みで「ゲー」と発音しますが、この曲を指すときは世間にならって「ジー」と言います。英語を習う前にヴァイオリンを始めていた筆者はしばらく、この呼び方が理解できなかったな……!G線一本で弾くなら「ゲー線上のアリア」のはず……と思い悩んでおりました。
それで管弦楽で演奏する際は『管弦楽組曲第3番アリア』となります。この内訳は、管弦楽(管楽器と弦楽器のための音楽)そして組曲(複数の曲を組み合わせたもの)そして第3番(3番目の組曲ということですね!)最後にアリア(この組曲はアリア含め序曲からガヴォット、ブーレなど他の舞曲と計5曲で構成されています)。この場合においても裏方においては「ジー線」と呼ばれることも多いです。
ヴァイオリンとピアノのデュオで演奏する形は19世紀のヴァイオリニスト、ウィルヘルミが編曲しました。この編曲がとても素晴らしいので今でも多くの場で愛される曲となったのですね。
ヴァイオリンの旋律をG線一本で奏でることで「管組」とはまた違う歌のようにも聴こえます。この曲にはとても思い入れのある方が多くいらっしゃるので、演奏のたびにお客様からの心の声を頂くことがとても沁み入る曲でもあります。何と言いますか、ヴァイオリンの一番低い弦一本で弾くことで自然にかかるポルタメントや指使いとボーイングの性格がそのまま出やすい曲でもあるように思います。
同じ曲なのに編曲によって違って聴こえるなんて、その妙については次回お伝えいたしましょう。
クラ・うら・俱楽部~パッヘルベルのカノンの場合②~
前回は、カノンの最も多い演奏現場での悟り事情をお伝えしました。
今回はこのカノンがフォーマルな雰囲気に合っている(つまり結婚式などで演奏されやすい)理由の1つをお伝えします。弦楽器奏者としてまず思い当たるのは、こういった曲を弾くときの音色の出し方。そして音程です。音程というと絶対音感という言葉のイメージもあり絶対的に唯一正しい音程が存在するかのようなイメージを持たれやすいかもしれませんが、アコースティックな演奏の場ではそうでもないのですね。例えば、小学校などでの演奏会。体育館のピアノの調律が合っていないとか、小学校の体育館でなくても地域の公民館や支配人があまりピアノを大切に扱ってくれないホテルのピアノとか、調律が合っていないピアノというのは世の中に五万とあり、それは現場に行ってみないと分からないことも多いのです。現地で軽いリハをしようと蓋を開けてみたら「この音とこの音がこんなふうに高くってこの音はこのくらい低くてこっちは鳴らなくて」というようなことも五万とあります。では音程が合っていないから弾けない??いえいえ、奏者たちはそういうときにも、そこまで気にならないように工夫し合って弾いています。音程って、実は音を構成する要素の1つ。音量とかタイミングとか、音の要素は他にもたくさんあります。

では、音程をカノンのときにどのようにするかというと。多くの弦楽器奏者は”あまりソリスティックではない、みんなでよく馴染む音程”にするかと思われます。ヴァイオリンのような音程を自らコントロールする楽器では「この音は少し高め、これは少し低め……」というような差を作り出したり、または自然な調和を目的として響きが溶け込むようにしたり、はたまた高めも低めもない平均的な取り方をしたりするのですが、私はこのような曲は調和を重視した音程を取ります。自分の音を際立たせる場合にはソリスティックな音程も取りますが、カノンはそうではない。全員が歩み寄って溶け込んでいく音程を取っていったら、このカノンは得も言われぬような正に”調和”の世界になっていく……この調和した姿こそがフォーマルな雰囲気に相応しいのだと思います。もちろん、音程だけでなく発音そのものも柔和な弾き方にしますが、音程って実は単なる音の高低ということを飛び越えて雰囲気そのものを醸し出すものでもあるのです。深いですね。
そういえば、前回ヴィオラとチェロは楽譜がなくたって弾けちゃうことをご紹介しましたが、このカノン、趣味の弦楽合奏の初歩で用いられることも少なくありません。それでどうなるかというと、例のカノン進行のおかげで曲の雰囲気は頭から終わりまで同じだから不慣れな方はどこを弾いているのか全く分からなくなるのだそうです(かわいそう)。楽譜通りに全員で同じタイミングでゴールするはずなのに1人だけ早く終わっていたりまだ終われなかったり!調和したくてもなかなか調和できない現実、仙人になるまで練習するしかない。これまた冷酷非情な現実、やぁねぇ。
では最後にカノンを3分ほどに短くアレンジした動画をお聴きください。演奏は私の多重録音。原曲を半分ほどの長さにしてみました⇒3分ほどのパッヘルベルのカノン
次回は3月に配信予定です!
クラ・うら・俱楽部~美しき青きドナウの場合①~
ワルツ王と呼ばれるヨハン・シュトラウス2世『美しき青きドナウ』について2回に分けてご紹介します。ググってもなかなか出てこない裏側をお楽しみください。
ヨハン・シュトラウス2世の『美しき青きドナウ』。2世というからには1世たる父親もいます(2回目でお伝えします)。1867年に書かれたこの作品は第二のウィーン国歌と呼ばれるほど親しまれ今や世界的な名曲といっても過言ではありません。ブラームスやワーグナーといった音楽室の強面たちも愛したと言われるこの名曲、早速NHK交響楽団による演奏をお聴きください。
良い曲ですねぇ。個人的にこういったウィンナワルツを弾くときは”ザ・美声”といった音色を大切にしています。もう声を聴くだけで落ちちゃうようなエルヴィス・プレスリーとか大自然に連れていかれるサラ・ブライトマンとか麗しい岩崎宏美さんといったイメージ?この世には美しいものしかないんだ!と思い込むような音色です。
では、2分28秒あたりからの第1ヴァイオリンにご注目下さい。
かの有名なこのメロディ。合いの手も第1ヴァイオリン群が弾いているのがお分かりでしょうか?
何と言っても、このふくよかな美しいメロディを弾いた直後に自分で合いの手を打つ!これを1人で弾けと言われたらとてもイヤでイヤでイヤで仕方ない作りです。
小さい音量ながらたっぷりとした音色で楽器を鳴らしたいこのメロディ、その直後軽い軽い合いの手に切り替え、またすぐ次のメロディ!完全に一人二役、間の休みが短いことが恨めしい。でもこの合いの手がいいのよ、合いの手が!正に伊達男と伊達女の世界、映画のスクリーンでしかお目にかからないような美男美女っぷりを音で魅せるのがオケの商売です。良かったぁ、これがソロじゃなくて。チャカチャカした超絶技巧より実はこういうお洒落を演出することのほうがずっと難しいのよ……1人じゃできないこともみんなで一緒ならできる!……と安心したところで次回に続きます。

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