スコットランド

クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか④

さて、メンデルスゾーン『スコットランド』も4回目となりました。今回はこの爽やかな第2楽章を顕微鏡で覗いてみます。この楽章はとにかくテーマ!テーマから始まりテーマに終わると言っても過言ではないほど神出鬼没なこのテーマ。ではまず演奏をお聴きください。第2楽章は16:22あたりからです。

メンデルスゾーンお得意の細かい音符、徹頭徹尾この細かい16分音符で成り立っているこの楽章。実はテーマにその”種”があります。では、またまた顕微鏡で拡大していきましょう。

このテーマの楽譜がこちら。

クラリネットは移調楽器です。。そのため、同じト音記号の楽譜でも、ピアノやヴァイオリンが読む楽譜とは音の位置関係が異なります。見た目は同じ楽譜でも、実際に鳴る音は別の高さになるのです。

テーマの旋律をドレミで表してみました。

楽譜になじみがない方でも、メロディーの動きが分かるように音名を書き添えています。

さて、このテーマの中から“種”を探すためには、まず調性について少し触れなければなりません。

この楽章はヘ長調。以下がヘ長調の音階の楽譜です。

音階の最初の音をメインに成り立つ和音を主和音と言います。ヘ長調なら「ファラド」の和音です。

では、この音階を元にテーマのメロディを見ていくと、

冒頭3つの音が音階そのものだということがまず分かります。そして4つめが主和音の中にあるド。

メロディの作りというものは、基本的に出だしが命。どのように始まるのかということが方向性や音楽全体の手綱を握っています。そしてこれがほぼ音階と主和音で成り立っているということは、このテーマはヘ長調の中であればどんなところにもいられる、だから神出鬼没にあらゆるところで姿を現わせるのですね。

そしてもう1つ違う面からこのテーマを見てみましょう。まず演奏をお聴きください。クラリネットのテーマを筆者のヴァイオリンで、伴奏をPCソフトのピアノで演奏しました。

このテーマをかなりゆっくりとしたテンポで演奏してみました。雰囲気を合わせるために伴奏もシンプルな形にしています。

どうでしょう、なんだか素朴な民謡のようではありませんか?

これはなぜかというと、このテーマの中には音楽が最も盛り上がる和音が入っていないからなのです。このテーマの和音の移り変わりはとても緩やか。ゆっくり弾いてみるとずいぶんと印象が変わりますね。これは、盛り上がる和音(属和音と呼ばれます)がないことで起伏に欠けるぶん、使い回ししやすい形となっているように筆者は思います。まるでシンプルで着回ししやすいお洋服のようです。

このことを踏まえて改めてこの楽章を聴いてみると、先ほどまでより多くの”種”を見つけられることでしょう。実は種はそのまま撒かれているだけではなく、半分に切られていたりボール遊びのようにポンポン楽器ごとに受け渡されていたり、表からは見えにくい裏庭でひっそりと土の下に潜っていたりします。ぜひこの楽章の中に散りばめられた”種”を発見してみてください。

次回は8月更新予定!『スコットランド』はまだまだ続きます!ご感想もお待ちしております。お問い合わせページからぜひお寄せくださいませ。

楽譜出典
Felix Mendelssohn, Symphony No. 3 “Scottish”IMSLP
※記事中の楽譜画像は解説のため一部を抜粋し、筆者が加工しています。

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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか②

さて今回はリズムについてです。が、その前に拍子についてお伝えします。と言っても難しい話ではありません。縦と横の話です。メンデルスゾーンのスコアは縦と横に編み込まれているのでそれを解きほぐして参りましょう。まるで顕微鏡で音楽を覗いているような気分になれること間違いなしです。

音楽には大きく分けて2拍子系(4拍子含む)と3拍子系がありますね。その他5拍子や7拍子ややろうと思えばいろいろとありますが、ここでは大雑把に考えます。2拍子というと代表的なのは行進曲。「イチ・ニ・イチ・ニ」とのりやすい拍子です。3拍子はワルツなどが有名ですね。

この2拍子って、どうも行進のイメージがあるせいか足を地面にグッと叩きつけるような感じがしませんか?筆者だけかもしれませんが、そのくらいこの2拍子は縦の性格が強いと思うのですね。比べると3拍子は横に流れるような雰囲気がある。例えるとケーキを2等分にするのは見た目にもスッキリ分かりやすいけど3等分に分けて、と言われると「えっ、誰かのぶんは大きくてその他の人のぶんはちっちゃくなっちゃうに違いないよ私」などとドキドキしそうです。そう、ぱっと見で3等分しにくいということは耳で聴いてもそうなのです。だからなんとなく横に流れていっているかのような性格を持ちやすいです。

で、この『スコットランド』の1楽章は、序奏の部分は3拍子です。そして本編の部分は8分の6拍子という”混合拍子”と呼ばれるやつなのですね。これは2拍子の性質と3拍子の性質を併せ持つということ。細かくいうと1小節に8分音符が3つと3つの組で2組入っている状態です。だからこの曲は2拍子の性格と3拍子の性格とが入り乱れているかのように書かれているのです。

じゃあ、それを前回もご紹介したテーマで見ていきましょう。

テーマ全体

楽譜は見た目の印象を感じていただければ幸いです。

オーケストラではかなり小さな音量で演奏します。弓の毛を3本だけ、と言われるような音量です。

小節という小箱のなかにある音符たちが箱の前半と後半でスラーというなだらかな曲線で結ばれています。これが大まかに2拍子の性格。縦の性格が反映されています。そしてそのスラーの中身は音符3つ。これはちょっと横に流れる感じです。

顕微鏡で覗いてみました

この冒頭だけで語ります……!ここに全てがある。それがテーマです。

さてこのテーマをもう少し細かく見ていきましょう。これは我々が演奏する際に基本の考え方として持っているものです。ドレミを書いた小節の前半ミーファミとありますね。後半ミラシとあります。実はここにも小さな縦と横の世界があるのです。それは、前半は音符とスラーだけで書かれていること。後半は最後のシの音の真下に黒いホクロのような点があるのはご覧いただけますでしょうか?この点が意味すること、それはこの後半は横には流れないということなのです。この点はスタカートと呼ばれ、多くの場合は”短めに切る”とされており、この場合もそうすることが多いです。で、よく見るとミラの部分だけまた内側にスラーがついていますね、シだけない。これがまたとっても重要で、ミラとシの間には若干の切れ目を作るということなのです。切るというほどでもない切れ目、もちろん次の小節に向かうときはもうちょっと切れますね、そこは完全にスラーがないから。そう、切れ目を作るということは横の流れを断ち切ることになりますから縦の性格のほうが強くなるのです。なんて複雑な……!

このテーマはメンデルスゾーンがまいた『スコットランド』の種ですから、このテーマの中に縦と横の性格があるということはこの曲全体がそうだと言えるわけです。

しかしこのスラーの切れ目、実際には切れているか切れていないか本当に微細なコントロールで行います。なので弦楽器としては弓の使い方が非常にシビアなところと言いますか、筆者個人としてはいわゆるソロ演奏より気を遣います。切れ目と言っても髪の毛1本ぶんくらい、もう少し切れるところは3本くらい、大ホールの客席からこの髪の毛を見つけるのはきっと難しいことでしょう(なので今こうして顕微鏡で覗いています!)。

ところで1つめの画像1段目の真ん中あたりにイタリア語でsemple ppとありますね。これは常にピアニッシモで、という意味ですが、なぜここにそんな指示が書かれているかというと、それはメンデルスゾーンが元々指揮者でもあったからだと思うのです。なぜなら、音楽の出だしは誰でも緊張しながら弾いている、けれども少し動き始めるとホッとして音量も大きくなりやすい、させないぞそんなことは!!このテーマは3段目で終わるまでピアニッシモのままなんだ!君らのことは(未来永劫まで)よく分かっているよ!絶対にピアニッシモ!!というオケを知り尽くしたメンデルスゾーンの心の声が聞こえてくるかのように2段目にも書かれているこの指示。我々奏者たちは楽譜を読むとき、こういうところまで読むものなのです。これが作曲家との交流だと信じて。

さて次回は顕微鏡から肉眼へと戻る予定です。まだまだ続くぞ『スコットランド』!ジメジメした空気をメンデルスゾーンでスッキリさせましょう!

クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか①

梅雨に入りましたね、これぞニッポンという空気のような気が致します。このジメジメの今にお伝えしたい音楽、それはメンデルスゾーンです。メンデルスゾーンと言えば爽やか優美な調べ。その洗練された雰囲気の理由はなにか?交響曲第3番『スコットランド』より第1楽章テーマを紐解きながらお伝えします。今回も音源と楽譜画像と共にお楽しみください。演奏は筆者のヴァイオリンとPCソフトのピアノの音です。今回のテーマ、それは”半音の使い方”。

ではこの曲のテーマをお聴きください。冒頭のヴィオラが奏でる旋律は実はここはまだ序奏の部分、なので本当の意味でのテーマはそのあとで出てきます。ですがまずヴィオラのテーマから。

ヴィオラのテーマですがヴァイオリンの音域でもあったので筆者が演奏しています。

それでは、序奏が終わった本編のテーマ。

ほんのりとした切なさ。個人的にはソロを弾くよりこういった音楽のほうがより気を遣います。下の譜面画像にあるスラーやスタカートも全て音楽の一部で音符と同じくらい大切な要素だからです。

どことなく似ている雰囲気がしませんか?楽譜画像をご覧頂きたいのですが、まずヴァイオリンが弾く本編のテーマ。これがこの曲の主役であり、序奏では簡素化してあります。見た目もヴィオラのほうがゆったりとして見えますね。もしかしたらメンデルスゾーンはこの序奏をオペラの序曲のように考えていたのかもしれません。オペラの序曲というのは作中に出てくる要素をてんこ盛りにしたまるで作品紹介のように書かれることが多いのですが、それを思い起こさせるような雰囲気です。序奏と本編は別の旋律のようでいて、実は同じ種から生まれたもののように感じられます。

ヴァイオリンが奏でるテーマ。主に半音とアルペジオで書かれています。

ヴィオラのテーマ。パートの中で2つの旋律を奏でるように書かれています。

このヴァイオリンとヴィオラでは音部記号が異なりますが、音楽の流れが重なるところを記してみました。赤丸で囲んだ箇所が重なる部分です。

メンデルスゾーンの楽譜は美しいのですが、私の丸は少々個性的です。

左から1つめの赤丸は”ミ”の音。その次の囲んでいない音は”ファ”。この旋律は揺れ動く半音から始まります。そしてこの始まりがこの曲全体の種になっているのではと思うのです。

そういえば、ヴィオラのテーマのあとに続くヴァイオリンの切なくも美しい旋律たちも半音だらけでした。

音符が階段を1段上がったり下がったり。半音って見た目にも揺れ動いています。

楽譜画像の中盤右のあたりAと書かれた箇所から弾いています。

この半音の動きはヴィオラのテーマとなんら関わりがないように見えて、実はそうではありません。この音源でちょうど30秒あたりは正にヴィオラの出だしと同じリズム。序奏の部分だけでここまで音楽を精緻に作りこむことができるのがメンデルスゾーンの天才たるゆえんですね。

普通は半音を多用するとちょっとねっとりとした絡みつくような印象になるものですが、それを切ないけれども重くない(なんだか恋愛談義のよう)使い方ができるのがメンデルスゾーンです。なぜそんなことができるのか?それはこの旋律を形作っているリズムとも大きな関係があります。そのリズムについては次回お伝えしましょう。かなりの大作ですので、メルマガとしてもなかなかの大作になりそうです。次回お届けは6/24予定です。

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