クラ・うら・俱楽部~ヴィヴァルディ『春』はなにゆえ明快なのか?②

前回”ほぼ私しか出てこない”とお伝えしたこの曲。今回は他の理由を見ていきます。これだけ明るいこの名曲、その明るさの秘密は1つではありません。では早速同時代の名作、バッハのヴァイオリン協奏曲第2番と比べてみます。以下の楽譜をご覧ください。ここでご覧頂きたいのは、音符を読むということより全体的な見た目の印象です。

ヴィヴァルディのスコア。ヴァイオリンからヴィオラまでほぼ同じ動きです。

ここでこの部分の演奏をお聴きください。前回も載せていますが、このスッキリ感やいかに。ヴァイオリンは筆者の演奏、伴奏はPCソフトのピアノの音です。

ではここでそのバッハ。

ヴィヴァルディに比べると見た目が複雑です。特にチェロバスだけ音階で駆け上っていたり。この見ためが音楽の動きそのものです。

ヴィヴァルディに比べると明るくはあるけれども、どこかあっけらかんとした何かが足りないような気がします。

私たちが使う言葉に譜面と書いて「ふづら」と読むものがありますが、これは正に譜面の見た目、顔のこと。まるで人間のようですね。この顔の印象がその曲そのものでもあるのです。ヴィヴァルディのほうはシンプルな見た目通り各パートの動きが揃っているということで、その単純さが明るさを増しています。

さて、ここでもう1つ大きな事情に触れましょう。それはどちらの曲もホ長調で書かれているということです。○○調というとクラシック音楽の理屈っぽい面でもあるので、やや専門的でもあるのですが、ここでは非常に大事なことなのです。

同じホ長調で書かれていながらヴィヴァルディの音楽は何よりも明快さがある。これは、ヴィヴァルディ自身が優れたヴァイオリニストであったことと、孤児院の学生たちにヴァイオリン演奏で身を立てられるようその人それぞれに合わせて曲を書き指導していた教師だったということ、正にヴァイオリンを知り尽くしたその生き様から生み出されたものでしょう。しかもこの1楽章は9割以上E線だけで弾きます。そのぶん音域が狭くなるので表現力が損なわれそうなものですが、この曲は素晴らしい。そんな曲他にないかも……E線と言えばヴァイオリンで一番高音の弦、また最もヴァイオリンらしい音が出る弦とも言えます。こんな書き方ができるところがさすが歴史的大教師。比べるとバッハのほうは同じ煌びやかな調でありながら、明るさには重きを置いていないようです。ちなみにバッハのヴァイオリンのためのホ長調の作品には無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番というものがあり、そちらは煌びやかな音色になるように書かれています。そのことについてはまた違う機会に取り上げましょう。

この記事でこの曲全体をお伝えするとかなりの長大な内容となってしまうので、敢えて冒頭部分にしか触れておりませんが、テーマというのはその曲全体を内包しているものでもあるので、その印象で作品全体を楽しんで頂ければ幸いです。次回は6月、ジメジメしてきているでしょうから爽やかな作品をお届けする予定です!

※今回全ての楽譜画像はIMSLP掲載スキャンより引用しました。https://imslp.org/

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