さて今回はリズムについてです。が、その前に拍子についてお伝えします。と言っても難しい話ではありません。縦と横の話です。メンデルスゾーンのスコアは縦と横に編み込まれているのでそれを解きほぐして参りましょう。まるで顕微鏡で音楽を覗いているような気分になれること間違いなしです。
音楽には大きく分けて2拍子系(4拍子含む)と3拍子系がありますね。その他5拍子や7拍子ややろうと思えばいろいろとありますが、ここでは大雑把に考えます。2拍子というと代表的なのは行進曲。「イチ・ニ・イチ・ニ」とのりやすい拍子です。3拍子はワルツなどが有名ですね。
この2拍子って、どうも行進のイメージがあるせいか足を地面にグッと叩きつけるような感じがしませんか?筆者だけかもしれませんが、そのくらいこの2拍子は縦の性格が強いと思うのですね。比べると3拍子は横に流れるような雰囲気がある。例えるとケーキを2等分にするのは見た目にもスッキリ分かりやすいけど3等分に分けて、と言われると「えっ、誰かのぶんは大きくてその他の人のぶんはちっちゃくなっちゃうに違いないよ私」などとドキドキしそうです。そう、ぱっと見で3等分しにくいということは耳で聴いてもそうなのです。だからなんとなく横に流れていっているかのような性格を持ちやすいです。
で、この『スコットランド』の1楽章は、序奏の部分は3拍子です。そして本編の部分は8分の6拍子という”混合拍子”と呼ばれるやつなのですね。これは2拍子の性質と3拍子の性質を併せ持つということ。細かくいうと1小節に8分音符が3つと3つの組で2組入っている状態です。だからこの曲は2拍子の性格と3拍子の性格とが入り乱れているかのように書かれているのです。
じゃあ、それを前回もご紹介したテーマで見ていきましょう。
テーマ全体

楽譜は見た目の印象を感じていただければ幸いです。
オーケストラではかなり小さな音量で演奏します。弓の毛を3本だけ、と言われるような音量です。
小節という小箱のなかにある音符たちが箱の前半と後半でスラーというなだらかな曲線で結ばれています。これが大まかに2拍子の性格。縦の性格が反映されています。そしてそのスラーの中身は音符3つ。これはちょっと横に流れる感じです。
顕微鏡で覗いてみました

この冒頭だけで語ります……!ここに全てがある。それがテーマです。
さてこのテーマをもう少し細かく見ていきましょう。これは我々が演奏する際に基本の考え方として持っているものです。ドレミを書いた小節の前半ミーファミとありますね。後半ミラシとあります。実はここにも小さな縦と横の世界があるのです。それは、前半は音符とスラーだけで書かれていること。後半は最後のシの音の真下に黒いホクロのような点があるのはご覧いただけますでしょうか?この点が意味すること、それはこの後半は横には流れないということなのです。この点はスタカートと呼ばれ、多くの場合は”短めに切る”とされており、この場合もそうすることが多いです。で、よく見るとミラの部分だけまた内側にスラーがついていますね、シだけない。これがまたとっても重要で、ミラとシの間には若干の切れ目を作るということなのです。切るというほどでもない切れ目、もちろん次の小節に向かうときはもうちょっと切れますね、そこは完全にスラーがないから。そう、切れ目を作るということは横の流れを断ち切ることになりますから縦の性格のほうが強くなるのです。なんて複雑な……!
このテーマはメンデルスゾーンがまいた『スコットランド』の種ですから、このテーマの中に縦と横の性格があるということはこの曲全体がそうだと言えるわけです。
しかしこのスラーの切れ目、実際には切れているか切れていないか本当に微細なコントロールで行います。なので弦楽器としては弓の使い方が非常にシビアなところと言いますか、筆者個人としてはいわゆるソロ演奏より気を遣います。切れ目と言っても髪の毛1本ぶんくらい、もう少し切れるところは3本くらい、大ホールの客席からこの髪の毛を見つけるのはきっと難しいことでしょう(なので今こうして顕微鏡で覗いています!)。
ところで1つめの画像1段目の真ん中あたりにイタリア語でsemple ppとありますね。これは常にピアニッシモで、という意味ですが、なぜここにそんな指示が書かれているかというと、それはメンデルスゾーンが元々指揮者でもあったからだと思うのです。なぜなら、音楽の出だしは誰でも緊張しながら弾いている、けれども少し動き始めるとホッとして音量も大きくなりやすい、させないぞそんなことは!!このテーマは3段目で終わるまでピアニッシモのままなんだ!君らのことは(未来永劫まで)よく分かっているよ!絶対にピアニッシモ!!というオケを知り尽くしたメンデルスゾーンの心の声が聞こえてくるかのように2段目にも書かれているこの指示。我々奏者たちは楽譜を読むとき、こういうところまで読むものなのです。これが作曲家との交流だと信じて。
さて次回は顕微鏡から肉眼へと戻る予定です。まだまだ続くぞ『スコットランド』!ジメジメした空気をメンデルスゾーンでスッキリさせましょう!



















