ブラームスが濃厚な響きを醸し出す理由、その謎について。前回ブラームスの音楽は”1つの小節の中に複数のリズムや拍子が混在する”とお伝えしました。今回はそれをもう少し見ていきましょう。楽譜画像は見た目の印象を感じていただければ幸いです。筆者の演奏とピアノの音による特製音源満載ですので音楽を聴ける環境でお楽しみください。(※ピアノはPCソフトの音なので良い音ではありませんがご容赦ください。)
まず、あの素敵な学生歌の部分から。楽譜でいうと129小節からです。ブレスラウ大学の裏庭でもこの歌が歌われていたのでしょうか、今の季節にピッタリな爽やかなメロディです。では原曲通りの弦楽器群をピアノの音で、第1・第2Vnは筆者の演奏です。ここでは管打楽器は割愛しています。
原曲通り~129小節から

楽譜では第1Vnを割愛しております。なぜならオブリガードといって飾りのような役割だからです。
※便宜上譜例には音符とタイ・スラー以外の楽語・記号等は記載していません。
ここでご注目いただきたいのはチェロの動き。楽譜ではそれぞれ上から3段目がチェロパートですが、まるで岩山のようにゴツゴツしているこの動き、これこそがブラームスの真骨頂とも言ってもきっと過言ではないでしょう。
変えてみました~129小節から

チェロパートをよくある動きに変えてみました。
ゴツゴツとした岩山がなだらかな丘のようになると、音楽の躍動感が減ってきているような印象があります。というのは、音というのは上がるにも下がるにもエネルギーが必要。物理と同じです。ヴァイオリンは指板で指を押さえたり離したりすれば音の高さは変えられる、けれどもその音が変わろうとしたときに自然と必要になるエネルギー・力を併せて表現する、そのエネルギーが減るとこの音楽からも躍動感が感じにくくなり、ブラームスらしさも損なわれてくるのでしょうか。
では、この先の「これぞブラームス!」と言うべき激しい箇所を見ていきましょう。楽譜でいうと269小節からです。画像では見やすさを優先しチェロパートのみ掲載します。
原曲通り~269小節目から

ところどころ休符の穴がありますね。それと後半はまた岩山!
第1Vnはかなり激しく弾くため、録音にも弓が弦をキシキシとこする音が結構入っています。これはホールでは聴こえない、でも演奏者の耳元ではこれが常に鳴っています。
チェロの出だしは実はこの曲のテーマのリズムです。以下はテーマだけを演奏した音声です。
このテーマをさぞかしただの伴奏のように用いて、しかも2小節目からは休符の穴ポコがある。この穴がまた要注意!それでは、これもよくある感じに変えてみます。
変えてみました~269小節目から

この楽譜なら初見で弾けそうですね。
うっかり落ちてしまいそうな穴ポコもなくなり岩山はただの石道、ずいぶん見通しが良くなりましたがそのぶんブラームスの誇りとも言うべき大切な何かを失ったような気がします。穴がないと伴奏もずいぶんと退屈になるものですね。それに見通しがいい道はなんだか単純。こんなのブラームスじゃない!(ブラームスじゃありません)。実はこの音源ではチェロだけではなくヴィオラやコントラバスも同じように変えています。
このことをユア・オーケストラでも演奏してくれたチェリストに聞いてみたら「やはりピアニストの音楽だよね」とのこと。ピアノの左手をそのままチェロに持ってくる(しかもブラームスはこういうことをよくやる)から弾きにくいしゴツゴツしている。でもそれがブラームスらしさに繋がっているのです。
前回お伝えした”1つの小節の中に複数のリズムや拍子が混在する”ということに加えて”音が1つの小節の中でかなりアップダウンしている”。いくつものリズムが百花繚乱のように咲き誇り、また縦横無尽なアップダウンで強いエネルギーが生じる、それが小節という小さい箱の中で同時に行われている。これがブラームスらしい濃厚な響きを醸し出しているのだと筆者は考えます。実際ヴァイオリンのパートを弾いていても他のパートにあるそれらのリズムや動きを意識するから粘るような音を出すイメージ。この粘っこさこそがブラームスの音楽とも感じます。
では、前回の最後にもご紹介したブロムシュテット氏による演奏でお耳直しをどうぞ。129小節3:23~、269小節6:07~頃からです。また本記事へのご意見、ご感想もお待ちしております。

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