カノン

クラ・うら・俱楽部~パッヘルベルのカノンの場合②~

前回は、カノンの最も多い演奏現場での悟り事情をお伝えしました。

今回はこのカノンがフォーマルな雰囲気に合っている(つまり結婚式などで演奏されやすい)理由の1つをお伝えします。弦楽器奏者としてまず思い当たるのは、こういった曲を弾くときの音色の出し方。そして音程です。音程というと絶対音感という言葉のイメージもあり絶対的に唯一正しい音程が存在するかのようなイメージを持たれやすいかもしれませんが、アコースティックな演奏の場ではそうでもないのですね。例えば、小学校などでの演奏会。体育館のピアノの調律が合っていないとか、小学校の体育館でなくても地域の公民館や支配人があまりピアノを大切に扱ってくれないホテルのピアノとか、調律が合っていないピアノというのは世の中に五万とあり、それは現場に行ってみないと分からないことも多いのです。現地で軽いリハをしようと蓋を開けてみたら「この音とこの音がこんなふうに高くってこの音はこのくらい低くてこっちは鳴らなくて」というようなことも五万とあります。では音程が合っていないから弾けない??いえいえ、奏者たちはそういうときにも、そこまで気にならないように工夫し合って弾いています。音程って、実は音を構成する要素の1つ。音量とかタイミングとか、音の要素は他にもたくさんあります。

では、音程をカノンのときにどのようにするかというと。多くの弦楽器奏者は”あまりソリスティックではない、みんなでよく馴染む音程”にするかと思われます。ヴァイオリンのような音程を自らコントロールする楽器では「この音は少し高め、これは少し低め……」というような差を作り出したり、または自然な調和を目的として響きが溶け込むようにしたり、はたまた高めも低めもない平均的な取り方をしたりするのですが、私はこのような曲は調和を重視した音程を取ります。自分の音を際立たせる場合にはソリスティックな音程も取りますが、カノンはそうではない。全員が歩み寄って溶け込んでいく音程を取っていったら、このカノンは得も言われぬような正に”調和”の世界になっていく……この調和した姿こそがフォーマルな雰囲気に相応しいのだと思います。もちろん、音程だけでなく発音そのものも柔和な弾き方にしますが、音程って実は単なる音の高低ということを飛び越えて雰囲気そのものを醸し出すものでもあるのです。深いですね。

そういえば、前回ヴィオラとチェロは楽譜がなくたって弾けちゃうことをご紹介しましたが、このカノン、趣味の弦楽合奏の初歩で用いられることも少なくありません。それでどうなるかというと、例のカノン進行のおかげで曲の雰囲気は頭から終わりまで同じだから不慣れな方はどこを弾いているのか全く分からなくなるのだそうです(かわいそう)。楽譜通りに全員で同じタイミングでゴールするはずなのに1人だけ早く終わっていたりまだ終われなかったり!調和したくてもなかなか調和できない現実、仙人になるまで練習するしかない。これまた冷酷非情な現実、やぁねぇ。

では最後にカノンを3分ほどに短くアレンジした動画をお聴きください。演奏は私の多重録音。原曲を半分ほどの長さにしてみました⇒3分ほどのパッヘルベルのカノン

次回は3月に配信予定です!

クラ・うら・俱楽部~パッヘルベルのカノンの場合①~

クラシック音楽の裏側をコッソリ教えちゃう、クラ・うら・俱楽部。今回はかの名曲”パッヘルベルのカノン”について2回に分けてお伝えします。

パッヘルベルって誰?これだけでピンとくる人は少ないかもしれません。あの”カノン”の作曲者です。他の作品はほぼ知られていませんがこの”カノン”だけで十分著名人入りしている彼は1653年生まれ1706年没のバロック時代、現在のドイツの作曲家でした。カノンの作曲時期は不明です。

元々”カノン”とはメロディが順に追いかけっこする形式のことを指し、この曲のタイトルではありません。あまりに有名すぎる作品のため”カノン”と言えばパッヘルベルのこれを指すことが多く、それは例えばピアノといえばショパンみたいな?実際にはこの作品以外の”カノン”もあります。ヴァイオリン3部とチェンバロという編成で書かれているこの曲。ヴァイオリン3部というのは、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、第3ヴァイオリンの3つのヴァイオリンパートでそこに通奏低音と呼ばれるチェンバロが加わります。

なのですが、恐らく皆様がこの曲を生で聴いたことがあるとすれば実は違う編成での演奏のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。

実際に多いのは弦楽四重奏や弦楽合奏。特に弦楽四重奏は第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、の4人で構成され、高音から低音のバランスがとれているためしばしば用いられます。例えばホテルでのパーティにロビーコンサートにレストランに結婚式に……。めでたい雰囲気やフォーマルな場にはピッタリです。こういった場で演奏したことがある奏者も多そう、もしかしたら原曲の編成より経験が多いかもしれません。

ちなみに、弦楽四重奏での演奏の場合、チェロがずっと通奏低音でヴィオラがコードをピチカートということが多いのですが、これはポップスでも使われるいわゆる”カノン進行”そのものなので曲の頭から終わりまでずっと同じ繰り返しです。なので、こういった仕事ではチェロ・ヴィオラ奏者は楽譜がなくても”正しく弾けちゃう”のだとか!それだけ弾いて飽きないか?いえ、もうツマラナイ感情を超えて無心になるのだそうです。カノンにおいては仙人のような方が多いかもしれませんね。悟り開けちゃう。

次回は2/25(水)配信予定です!