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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか⑧

メンデルスゾーン《スコットランド》連載も最終回となりました。今回は第4楽章の続き、そして感動のコーダについて顕微鏡で覗いてみます。画像多めでお送り致します!

メンデルスゾーン節とは

よくメンデルスゾーンは癖がない、あっさりとしていると言われますが、実はそう見えるところに彼の個性があるのでしょう。例えば、彼がよく用いる書き方の1つ、高い音→低い音への急降下。こういった音と音の変化をダイレクトに感じさせるところに筆者は”メンデルスゾーン節”を感じます。急降下によってまるで大きなアクセントのように聴こえる。そのために他のものは一切捨てているといっても過言ではないほどです。音そのものを聴かせているのかもしれません。

付点のリズムに3連符と盛りだくさんのシーン!

このへんは、オクターブと付点のリズムとの双方でアクセント効果が増幅していますね。アクセントの記号がなくても自然と音と音の間を強調して演奏します。

感動のコーダ

そしてとうとう辿り着きました。種を育てる長い旅のエンディング。このコーダが、ヴィオラから始まることに感動を禁じえません。第1楽章冒頭を彷彿とさせるようです。しかもイ短調がイ長調となって帰って参りました。

第1楽章冒頭。この旅はヴィオラから始まりました。

コーダの冒頭、下から3段目がヴィオラです。付点のリズムも健在です!ヴィオラが奏でる付点に赤い点をつけてみました。

管楽器もみな同じテーマを奏でるとは、なんと感動的なシーンでしょうか。

そして、半音……!長調になったことで半音が全音へと変身しました!まるでサナギから蝶へ変身したかのようでお見事。輝かしいその胸には立派な装飾音符をひらひらとさせています。装飾音符というのは大事な音にしか付けないもの。これは全音を聴かせるための旅でもあったのです。

赤丸が装飾音符。堂々たる栄光の証です。

ここまでして大切に描かれた付点のリズム、半音、そして育て上げられた全音とは何か?

それは、音楽の源そのものだと思います。

自分の個性や音楽性というよりも音そのものの性質を表すことにその才能を賭けたメンデルスゾーン。表すために他の要素を徹底的に排除しているのがむしろメンデルスゾーン節、どこをとってもきちんと音楽の種が聴こえるというのは凄いこと。

そうして迎えたエンディング、最後の最後も付点のリズムで終わります。

赤丸で囲んだのが付点のリズム。この徹底ぶりが芸術たるゆえんです。

洗練されている理由

至善と書いてしぜんと読む言葉があるそうですが、この曲は正に自然=至善であるという彼の美学が貫かれるいるような気が致します。音は音そのものが素晴らしい。個人の考えや好みを超越した豊かさ。それを描くために徹底して排除した他のもの。余談ですが、筆者も幼少の頃より音楽以外のことをかなり排除することが身についています。捨てるときには辛いものの、いつしかヴァイオリンのために他の物事を捨てていくことが快感となっているような。メンデルスゾーンとは比較すべくもありませんが、芸術のために排除するという姿勢は共感できるのです。捨てないと本物は得られない。そうまでして得られた音だから”洗練”という表現をまとうことができるのかもしれません。ここまで駆け足で来ましたが、メンデルスゾーンが表したかったものを少しでもお伝えできていれば幸いです。ご感想もお待ちしております。お問い合わせページからぜひお寄せくださいませ。

楽譜出典
Felix Mendelssohn, Symphony No. 3 “Scottish”(IMSLP)
※記事中の楽譜画像は解説のため一部を抜粋し、筆者が加工しています。

芸術を日常に取り入れるライフスタイルブランド「VERSA」。

クラシック音楽をモチーフにした「クラシック黒」シリーズはこちらからご覧いただけます。

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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか⑦

お待たせしました。メンデルスゾーン『スコットランド』とうとう第4楽章です。メンデルスゾーンがこの作品で表現したものとは。今まで撒かれた種たちがまるで映画の登場人物かのように大活躍するこの楽章、その大立ち回りを音源と楽譜画像でお伝えします。楽譜は音符を読むというより絵画のように印象を感じて頂ければ幸いです。

改めて登場人物の紹介

まずは、付点のリズム。第1楽章のヴィオラのテーマも彼でした。何かと目立つ存在ですね。以下”付点”と省略します。

ヴァイオリン群が放つテーマは正に付点の嵐です。

ちなみに冒頭の16分音符は付点の鋭さを表したもの。自らの姿は現さずに性格だけは登場させるとは、できるヤツです。この部分を筆者のヴァイオリンとPCソフトのピアノで演奏してみました。

そして3連符。この人は音楽を不安定にさせたりフワフワガサガサ、いわゆる”雰囲気”を作り出すのが大得意です。

第1Vnの楽譜です。4段目後半から3連符がまるで主役のように出てきます。数字で3と書かれています。

それとなんといっても半音!

臨時記号で#が記されている箇所は全て半音。何度も顔を出す重要人物です。しかも付点と絡みながら出てくるなんて印象を残す天才です。

この曲が短調で書かれているのは半音を駆使したかったからではないか、と推測します。

第4の登場人物

そして、影に隠れながらも大きく存在感を示す4分音符。

4分音符というのは、まるで空気のような人物。いるかいないか普段はあまり気になりません。ですが4分音符がいることで付点の鋭さが目立ち、3連符の不安定な立ち位置が際立つ、絶妙な引き立て役として登場しています。画像1枚目のテーマでは伴奏、そして後半ではメロディ役として見事な一人二役を演じきっています。音源1つ目14秒目~の4分音符といったら、このように格好いい4分音符は滅多にいない(惚れそう)。

さて、ここで第1楽章を振り返ってみましょう。テーマは付点から始まるものでした。そしてこの『スコットランド』は2拍子と3拍子という相反するリズム同士の物語だったのです。それは朝と夜、白と黒……というような真逆でもありグラデーションも併せ持つ関係性。この2人はどちらが主役というのではなくどちらもメインキャラクターです。そこに独自のキャラクターを発揮し続ける付点。どちらにもぶれない強さ、それこそが鋭く感じられるのかもしれません。第2楽章では一旦大人しくなった彼らですが、第3楽章では雄大なその姿を表しました。

この4人の人物たちが激しく立ち回った先に行きつくコーダとは。次回とうとう『スコットランド』最終回にてお届けします!ご感想もお待ちしております。お問い合わせページからぜひお寄せくださいませ。

楽譜出典
Felix Mendelssohn, Symphony No. 3 “Scottish”(IMSLP)
※記事中の楽譜画像は解説のため一部を抜粋し、筆者が加工しています。

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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか⑥

メンデルスゾーン『スコットランド』。いよいよ終盤に差し掛かって参りました。美しさの極致のようなこの楽章は”種”がアラベスクのように絡みながら実っていきます。そのさまをお伝えする楽譜画像と音源は少々複雑ですが、筆者なりに分かりやすい形にしてみましたのでどうぞお付き合いくださいませ。楽譜は絵画のようにイメージで感じて頂ければ幸いです。

前回もご紹介した3楽章冒頭。音源で赤丸を筆者のヴァイオリン、青丸はPCソフトのピアノで演奏してみました。どちらもこのあと大樹のように大きく育っていきますが、赤丸は付点のリズムに加えて半音が印象的です。

赤丸と青丸、どちらも1楽章からまかれている付点のリズムの種です。

このあと出てくるこの楽章のテーマ。とても美しいなだらかな旋律です。さり気なく付点のリズムもいます。

ここの伴奏は実際には弦楽器群によるピチカートです。このリズムは16分音符ですが、これがこののち大変身を遂げます。

種が大樹へと実っていく

この楽章は1つめの画像にある赤丸と青丸の動き、そしてテーマが絡み合いながらどんどん大きくなっていきますが、この2つの丸がまず変貌するのがこの部分からです。楽譜でいうと63小節目あたりから。

この部分の楽譜画像です。赤丸と青丸に加えて、1楽章からその片鱗を見せている、2拍子と3拍子の性格がここでは16分音符4つと6連符に姿を変えて現れています。とても複雑なので画像を分けてご紹介いたします。

赤い矢印は赤丸が旋律となっていく様子。オレンジは6連符です。テーマのときには16分音符だったピチカートが6連符になることで気持ちもざわめいていくのです。

青丸がどんどん膨らんで、囲めなくなってしまいました。そして6連符もその存在感を増していきます。

フレーズが終わったあとも付点のリズムと6連符は姿を消しません。それどころか、この物語の主役のように紡いでいきます。

1楽章で2拍子と3拍子の性格についてお伝えしましたが、この楽章ではそれをリズムに置き換えて表されています。

16分音符4つが2拍子のもつ性格。6連符は3連符2つと考えて3拍子の性格。この2つの性格と付点のリズム、そして半音の使い方がこの曲全体にまかれた種であり、それは終楽章に向けて大きく実っていくのです。それはあたかも植物が季節の恵みや自然の厳しさを経験して初めて豊かに実る様のようでもあります。

ではこれらにテーマがどのように関わっているかというと、次のチェロの部分をお聴きください。ヴァイオリンで弾ける音域だったため筆者が演奏しています。

チェロっぽい音色と歌い方になるように弾き方を工夫してみました。

オレンジ色で6と記しているのは6連符(3拍子の性格)、4は16分音符4つ(2拍子の性格)です。

あの美しいテーマに2拍子と3拍子の性格のどちらも絡めるとは、まるでとてつもないアラベスク文様を目の当たりにしているようです。

ところで、筆者の経験ではこういった場面の旋律は伴奏を聴きすぎないほうが上手くいくようです。というのは同じ場所に2拍子も3拍子もいるとどちらに合わせたらいいのか分からなくなってしまうから。正確に弾くことだけが正しいわけではない、割り切れないままでいい、ままがいい。

しかしメンズデザインは割り切れない音楽をも最後には見事にスパーン!と割ってしまうようです。その4楽章については次回お届けいたします。ご感想もお待ちしております。お問い合わせページからぜひお寄せくださいませ。

楽譜出典
Felix Mendelssohn, Symphony No. 3 “Scottish”(IMSLP)
※記事中の楽譜画像は解説のため一部を抜粋し、筆者が加工しています。

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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか⑤

メンデルスゾーン『スコットランド』連載も5回目となりました。メンデルスゾーン《スコットランド》連載も5回目となりました。ここからはいよいよ後半、3・4楽章へ入っていきます。しかし、この曲は前へ進むために、常に過去を振り返らなければいけない、過去と未来が、同じ一粒の種から育っている作品なのです。

そこで、今回はまず彼の音楽を支えていたであろう絵画作品をご覧ください。風景画が特に有名で検索すると多くの作品が出てきます。その中から筆者が紹介したいのは白黒を基調としたスケッチ作品です。以下のサイトに、彼のスコットランド旅行中のスケッチが紹介されています。

https://www.mendelssohninscotland.com/mendelssohn-artist

これらの作品を見ていて筆者が感じたことは、この細かい筆致、特に山々の木々の葉や草、岩肌などを表す細かな筆致が彼の16分音符のようだということです。この16分音符たちは私たちが見ることができる自然界の恐らく最も小さな単位であり、世の中を形作る根源でもある。それが彼の音楽のベースとなっているような気がするのです。そして、彼にとっての洗練されたものとはまさにこの自然そのものだったのではないでしょうか。

さて、それを音楽に置き換えてみましょう。この曲全楽章においてとても重要な役割を担っている16分音符、その姿は主に付点のリズムで表れています。その活躍ぶりと言ったらまるで『真夏の夜の夢』のあの妖精パックのよう!目立つところにいるのはもちろん、気がつかない裏側にもいつの間にか潜んでいます。付点と言えば、1楽章の冒頭も付点で始まったことは覚えておいででしょうか(ぜひ1楽章記事をご参照ください)。

赤丸が付点のリズム。このリズムがないとなんと凡庸な音楽になることでしょう。

楽譜画像はイメージとしてご覧頂ければ幸いです。また、音源は筆者のヴァイオリンとPCソフトのピアノによる演奏です。

さて、以下の画像は3楽章に出てくる付点の種たちです。メインテーマが始まる前、青い丸はサブテーマとなり赤い丸は付点でもあり実は1楽章から顔を出す名脇役でもあります。それぞれ大樹のように育っていきます。前回からご紹介しているパーヴォ・ヤルヴィ指揮チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団のYouTubeで20:51あたりからです。(下部に載せております。)

3楽章冒頭部分。メロディが始まる前奏のようなところです。赤丸は1st Vn、青丸は下からホルン、ファゴット、クラリネットが奏でます。

この名脇役、1楽章での活躍シーンはこちらでした(この件はこちらをご参照ください)。

このシーンの終わりが半音!この半音のニュアンスが彼の仕事です。

この付点のリズムを種として撒いておき、楽章を通して少しずつ大樹として育て上げるのがメンデルスゾーン流。この育ち方に次回も注目してお届けいたします。ご感想もお待ちしております。お問い合わせページからぜひお寄せくださいませ。

楽譜出典
Felix Mendelssohn, Symphony No. 3 “Scottish”(IMSLP)
※記事中の楽譜画像は解説のため一部を抜粋し、筆者が加工しています。

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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか④

さて、メンデルスゾーン『スコットランド』も4回目となりました。今回はこの爽やかな第2楽章を顕微鏡で覗いてみます。この楽章はとにかくテーマ!テーマから始まりテーマに終わると言っても過言ではないほど神出鬼没なこのテーマ。ではまず演奏をお聴きください。第2楽章は16:22あたりからです。

メンデルスゾーンお得意の細かい音符、徹頭徹尾この細かい16分音符で成り立っているこの楽章。実はテーマにその”種”があります。では、またまた顕微鏡で拡大していきましょう。

このテーマの楽譜がこちら。

クラリネットは移調楽器です。。そのため、同じト音記号の楽譜でも、ピアノやヴァイオリンが読む楽譜とは音の位置関係が異なります。見た目は同じ楽譜でも、実際に鳴る音は別の高さになるのです。

テーマの旋律をドレミで表してみました。

楽譜になじみがない方でも、メロディーの動きが分かるように音名を書き添えています。

さて、このテーマの中から“種”を探すためには、まず調性について少し触れなければなりません。

この楽章はヘ長調。以下がヘ長調の音階の楽譜です。

音階の最初の音をメインに成り立つ和音を主和音と言います。ヘ長調なら「ファラド」の和音です。

では、この音階を元にテーマのメロディを見ていくと、

冒頭3つの音が音階そのものだということがまず分かります。そして4つめが主和音の中にあるド。

メロディの作りというものは、基本的に出だしが命。どのように始まるのかということが方向性や音楽全体の手綱を握っています。そしてこれがほぼ音階と主和音で成り立っているということは、このテーマはヘ長調の中であればどんなところにもいられる、だから神出鬼没にあらゆるところで姿を現わせるのですね。

そしてもう1つ違う面からこのテーマを見てみましょう。まず演奏をお聴きください。クラリネットのテーマを筆者のヴァイオリンで、伴奏をPCソフトのピアノで演奏しました。

このテーマをかなりゆっくりとしたテンポで演奏してみました。雰囲気を合わせるために伴奏もシンプルな形にしています。

どうでしょう、なんだか素朴な民謡のようではありませんか?

これはなぜかというと、このテーマの中には音楽が最も盛り上がる和音が入っていないからなのです。このテーマの和音の移り変わりはとても緩やか。ゆっくり弾いてみるとずいぶんと印象が変わりますね。これは、盛り上がる和音(属和音と呼ばれます)がないことで起伏に欠けるぶん、使い回ししやすい形となっているように筆者は思います。まるでシンプルで着回ししやすいお洋服のようです。

このことを踏まえて改めてこの楽章を聴いてみると、先ほどまでより多くの”種”を見つけられることでしょう。実は種はそのまま撒かれているだけではなく、半分に切られていたりボール遊びのようにポンポン楽器ごとに受け渡されていたり、表からは見えにくい裏庭でひっそりと土の下に潜っていたりします。ぜひこの楽章の中に散りばめられた”種”を発見してみてください。

次回は8月更新予定!『スコットランド』はまだまだ続きます!ご感想もお待ちしております。お問い合わせページからぜひお寄せくださいませ。

楽譜出典
Felix Mendelssohn, Symphony No. 3 “Scottish”(IMSLP)
※記事中の楽譜画像は解説のため一部を抜粋し、筆者が加工しています。

作曲家Tシャツ『クラシック黒』バッハ販売しております。

クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか③

メンデルスゾーン『スコットランド』第1楽章。いよいよ佳境に入ってまいりました。今回は前回、前々回の内容を踏まえてこの曲の特徴的なことについてお伝えします。今回もヴァイオリンは筆者の演奏、ピアノはPCソフトの音ですが、その前に演奏を1つご紹介いたします。お時間がおありの方はぜひ演奏をお聴きの上本記事をお読みください。きっとより深くメンデルスゾーンのまいた種を見つけられることと思います。

とても柔らかい表現に透明感のある音色でメンデルスゾーンの種がよく見えてくるかのような素晴らしい演奏です。比べると筆者の演奏はマジメすぎるかもしれません。

縦と横の性格

それでは前回もご紹介したヴァイオリンのテーマ。今回はチェロパートをピアノで足してみました。動画では3:48あたりからです。

ここでも縦の性格と横の性格が見えてきます。以下はこのテーマのスコアですが、見た目の印象を感じていただければ幸いです。

スコアより弦楽器パートのみ抜き出しました。1番上の段が1st Vn、下から2段目がチェロです。

チェロのパート譜がこちら。

3段目「ここまで」がこのテーマです。この3段目からはチェロパートの中で上と下に分かれて演奏するため2段で1つのパートとして書かれています。

小節という小箱の中にスラーがある音、ない音。ある音は横に流れる雰囲気、ない音は2拍子の縦の雰囲気です。このテーマに縦と横の2つの性格があるということは、この曲全体がそうだと言えるでしょう。

締めは半音

テーマだけではなくもっと先も見てみましょう。動画4:34あたりからを聴いてみると2つ取り、つまり2拍子の感じが強い印象です。そして”締め”は半音!

「ここから」の次の小節から弾いてみました。動画4:50あたりです。

もっと先の嵐のような場面、動画14:32あたり453小節目からです。

3小節目からは16分音符2つを1つのように書かれています。これは省略した書き方。

そしてこの嵐の場面は半音半音半音だらけ!ですがよくご覧いただくとここに縦の動きが隠れています。どこかな?またまた顕微鏡で拡大してみましょう!

上の楽譜の2段目から。筆者の個性的な赤丸をご堪能下さい。

赤丸で囲んだ2か所はなんと8分音符、ここは16分音符ではありません。この嵐の場面はほぼ半音の動きで書かれていますが、半音というものはまるでグラデーションのようで音の違いがはっきりしないのです。そのぶん横に流れやすい雰囲気になり、それをせき止めるかのような8分音符!この8分音符が要所にあることで、奏者も拍子を意識するので流れすぎない演奏となるのです。正にメンデルスゾーンが指揮者でもあったことが多いに活かされている書き方だと思います。そして何と言ってもここの締めも半音だ!この半音がこの1楽章終盤にも印象的に用いられ、終楽章に至るまで大きな影響力をもっています。

3回に分けてこの1楽章についてお届けしましたが、まだまだこの曲は続きます。次回は2楽章!『クラ・うら・俱楽部』はこの夏を『スコットランド』に捧げます!ご感想もお待ちしております。お問い合わせページからぜひお寄せくださいませ。

楽譜出典
Felix Mendelssohn, Symphony No. 3 “Scottish”(IMSLP)
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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか②

さて今回はリズムについてです。が、その前に拍子についてお伝えします。と言っても難しい話ではありません。縦と横の話です。メンデルスゾーンのスコアは縦と横に編み込まれているのでそれを解きほぐして参りましょう。まるで顕微鏡で音楽を覗いているような気分になれること間違いなしです。

音楽には大きく分けて2拍子系(4拍子含む)と3拍子系がありますね。その他5拍子や7拍子ややろうと思えばいろいろとありますが、ここでは大雑把に考えます。2拍子というと代表的なのは行進曲。「イチ・ニ・イチ・ニ」とのりやすい拍子です。3拍子はワルツなどが有名ですね。

この2拍子って、どうも行進のイメージがあるせいか足を地面にグッと叩きつけるような感じがしませんか?筆者だけかもしれませんが、そのくらいこの2拍子は縦の性格が強いと思うのですね。比べると3拍子は横に流れるような雰囲気がある。例えるとケーキを2等分にするのは見た目にもスッキリ分かりやすいけど3等分に分けて、と言われると「えっ、誰かのぶんは大きくてその他の人のぶんはちっちゃくなっちゃうに違いないよ私」などとドキドキしそうです。そう、ぱっと見で3等分しにくいということは耳で聴いてもそうなのです。だからなんとなく横に流れていっているかのような性格を持ちやすいです。

で、この『スコットランド』の1楽章は、序奏の部分は3拍子です。そして本編の部分は8分の6拍子という”混合拍子”と呼ばれるやつなのですね。これは2拍子の性質と3拍子の性質を併せ持つということ。細かくいうと1小節に8分音符が3つと3つの組で2組入っている状態です。だからこの曲は2拍子の性格と3拍子の性格とが入り乱れているかのように書かれているのです。

じゃあ、それを前回もご紹介したテーマで見ていきましょう。

テーマ全体

楽譜は見た目の印象を感じていただければ幸いです。

オーケストラではかなり小さな音量で演奏します。弓の毛を3本だけ、と言われるような音量です。

小節という小箱のなかにある音符たちが箱の前半と後半でスラーというなだらかな曲線で結ばれています。これが大まかに2拍子の性格。縦の性格が反映されています。そしてそのスラーの中身は音符3つ。これはちょっと横に流れる感じです。

顕微鏡で覗いてみました

この冒頭だけで語ります……!ここに全てがある。それがテーマです。

さてこのテーマをもう少し細かく見ていきましょう。これは我々が演奏する際に基本の考え方として持っているものです。ドレミを書いた小節の前半ミーファミとありますね。後半ミラシとあります。実はここにも小さな縦と横の世界があるのです。それは、前半は音符とスラーだけで書かれていること。後半は最後のシの音の真下に黒いホクロのような点があるのはご覧いただけますでしょうか?この点が意味すること、それはこの後半は横には流れないということなのです。この点はスタカートと呼ばれ、多くの場合は”短めに切る”とされており、この場合もそうすることが多いです。で、よく見るとミラの部分だけまた内側にスラーがついていますね、シだけない。これがまたとっても重要で、ミラとシの間には若干の切れ目を作るということなのです。切るというほどでもない切れ目、もちろん次の小節に向かうときはもうちょっと切れますね、そこは完全にスラーがないから。そう、切れ目を作るということは横の流れを断ち切ることになりますから縦の性格のほうが強くなるのです。なんて複雑な……!

このテーマはメンデルスゾーンがまいた『スコットランド』の種ですから、このテーマの中に縦と横の性格があるということはこの曲全体がそうだと言えるわけです。

しかしこのスラーの切れ目、実際には切れているか切れていないか本当に微細なコントロールで行います。なので弦楽器としては弓の使い方が非常にシビアなところと言いますか、筆者個人としてはいわゆるソロ演奏より気を遣います。切れ目と言っても髪の毛1本ぶんくらい、もう少し切れるところは3本くらい、大ホールの客席からこの髪の毛を見つけるのはきっと難しいことでしょう(なので今こうして顕微鏡で覗いています!)。

ところで1つめの画像1段目の真ん中あたりにイタリア語でsemple ppとありますね。これは常にピアニッシモで、という意味ですが、なぜここにそんな指示が書かれているかというと、それはメンデルスゾーンが元々指揮者でもあったからだと思うのです。なぜなら、音楽の出だしは誰でも緊張しながら弾いている、けれども少し動き始めるとホッとして音量も大きくなりやすい、させないぞそんなことは!!このテーマは3段目で終わるまでピアニッシモのままなんだ!君らのことは(未来永劫まで)よく分かっているよ!絶対にピアニッシモ!!というオケを知り尽くしたメンデルスゾーンの心の声が聞こえてくるかのように2段目にも書かれているこの指示。我々奏者たちは楽譜を読むとき、こういうところまで読むものなのです。これが作曲家との交流だと信じて。

さて次回は顕微鏡から肉眼へと戻る予定です。まだまだ続くぞ『スコットランド』!ジメジメした空気をメンデルスゾーンでスッキリさせましょう!

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クラ・うら・俱楽部~メンデルスゾーンはなにゆえ洗練されているのか①

梅雨に入りましたね、これぞニッポンという空気のような気が致します。このジメジメの今にお伝えしたい音楽、それはメンデルスゾーンです。メンデルスゾーンと言えば爽やか優美な調べ。その洗練された雰囲気の理由はなにか?交響曲第3番『スコットランド』より第1楽章テーマを紐解きながらお伝えします。今回も音源と楽譜画像と共にお楽しみください。演奏は筆者のヴァイオリンとPCソフトのピアノの音です。今回のテーマ、それは”半音の使い方”。

ではこの曲のテーマをお聴きください。冒頭のヴィオラが奏でる旋律は実はここはまだ序奏の部分、なので本当の意味でのテーマはそのあとで出てきます。ですがまずヴィオラのテーマから。

ヴィオラのテーマですがヴァイオリンの音域でもあったので筆者が演奏しています。

それでは、序奏が終わった本編のテーマ。

ほんのりとした切なさ。個人的にはソロを弾くよりこういった音楽のほうがより気を遣います。下の譜面画像にあるスラーやスタカートも全て音楽の一部で音符と同じくらい大切な要素だからです。

どことなく似ている雰囲気がしませんか?楽譜画像をご覧頂きたいのですが、まずヴァイオリンが弾く本編のテーマ。これがこの曲の主役であり、序奏では簡素化してあります。見た目もヴィオラのほうがゆったりとして見えますね。もしかしたらメンデルスゾーンはこの序奏をオペラの序曲のように考えていたのかもしれません。オペラの序曲というのは作中に出てくる要素をてんこ盛りにしたまるで作品紹介のように書かれることが多いのですが、それを思い起こさせるような雰囲気です。序奏と本編は別の旋律のようでいて、実は同じ種から生まれたもののように感じられます。

ヴァイオリンが奏でるテーマ。主に半音とアルペジオで書かれています。

ヴィオラのテーマ。パートの中で2つの旋律を奏でるように書かれています。

このヴァイオリンとヴィオラでは音部記号が異なりますが、音楽の流れが重なるところを記してみました。赤丸で囲んだ箇所が重なる部分です。

メンデルスゾーンの楽譜は美しいのですが、私の丸は少々個性的です。

左から1つめの赤丸は”ミ”の音。その次の囲んでいない音は”ファ”。この旋律は揺れ動く半音から始まります。そしてこの始まりがこの曲全体の種になっているのではと思うのです。

そういえば、ヴィオラのテーマのあとに続くヴァイオリンの切なくも美しい旋律たちも半音だらけでした。

音符が階段を1段上がったり下がったり。半音って見た目にも揺れ動いています。

楽譜画像の中盤右のあたりAと書かれた箇所から弾いています。

この半音の動きはヴィオラのテーマとなんら関わりがないように見えて、実はそうではありません。この音源でちょうど30秒あたりは正にヴィオラの出だしと同じリズム。序奏の部分だけでここまで音楽を精緻に作りこむことができるのがメンデルスゾーンの天才たるゆえんですね。

普通は半音を多用するとちょっとねっとりとした絡みつくような印象になるものですが、それを切ないけれども重くない(なんだか恋愛談義のよう)使い方ができるのがメンデルスゾーンです。なぜそんなことができるのか?それはこの旋律を形作っているリズムとも大きな関係があります。そのリズムについては次回お伝えしましょう。かなりの大作ですので、メルマガとしてもなかなかの大作になりそうです。次回お届けは6/24予定です。

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クラ・うら・俱楽部~ヴィヴァルディ『春』はなにゆえ明快なのか?②

前回”ほぼ私しか出てこない”とお伝えしたこの曲。今回は他の理由を見ていきます。これだけ明るいこの名曲、その明るさの秘密は1つではありません。では早速同時代の名作、バッハのヴァイオリン協奏曲第2番と比べてみます。以下の楽譜をご覧ください。ここでご覧頂きたいのは、音符を読むということより全体的な見た目の印象です。

ヴィヴァルディのスコア。ヴァイオリンからヴィオラまでほぼ同じ動きです。

ここでこの部分の演奏をお聴きください。前回も載せていますが、このスッキリ感やいかに。ヴァイオリンは筆者の演奏、伴奏はPCソフトのピアノの音です。

ではここでそのバッハ。

ヴィヴァルディに比べると見た目が複雑です。特にチェロバスだけ音階で駆け上っていたり。この見ためが音楽の動きそのものです。

ヴィヴァルディに比べると明るくはあるけれども、どこかあっけらかんとした何かが足りないような気がします。

私たちが使う言葉に譜面と書いて「ふづら」と読むものがありますが、これは正に譜面の見た目、顔のこと。まるで人間のようですね。この顔の印象がその曲そのものでもあるのです。ヴィヴァルディのほうはシンプルな見た目通り各パートの動きが揃っているということで、その単純さが明るさを増しています。

さて、ここでもう1つ大きな事情に触れましょう。それはどちらの曲もホ長調で書かれているということです。○○調というとクラシック音楽の理屈っぽい面でもあるので、やや専門的でもあるのですが、ここでは非常に大事なことなのです。

同じホ長調で書かれていながらヴィヴァルディの音楽は何よりも明快さがある。これは、ヴィヴァルディ自身が優れたヴァイオリニストであったことと、孤児院の学生たちにヴァイオリン演奏で身を立てられるようその人それぞれに合わせて曲を書き指導していた教師だったということ、正にヴァイオリンを知り尽くしたその生き様から生み出されたものでしょう。しかもこの1楽章は9割以上E線だけで弾きます。そのぶん音域が狭くなるので表現力が損なわれそうなものですが、この曲は素晴らしい。そんな曲他にないかも……E線と言えばヴァイオリンで一番高音の弦、また最もヴァイオリンらしい音が出る弦とも言えます。こんな書き方ができるところがさすが歴史的大教師。比べるとバッハのほうは同じ煌びやかな調でありながら、明るさには重きを置いていないようです。ちなみにバッハのヴァイオリンのためのホ長調の作品には無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番というものがあり、そちらは煌びやかな音色になるように書かれています。そのことについてはまた違う機会に取り上げましょう。

この記事でこの曲全体をお伝えするとかなりの長大な内容となってしまうので、敢えて冒頭部分にしか触れておりませんが、テーマというのはその曲全体を内包しているものでもあるので、その印象で作品全体を楽しんで頂ければ幸いです。次回は6月、ジメジメしてきているでしょうから爽やかな作品をお届けする予定です!

※今回全ての楽譜画像はIMSLP掲載スキャンより引用しました。https://imslp.org/

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クラ・うら・俱楽部~ヴィヴァルディ『春』はなにゆえ明快なのか?①

季節は春5月ですね!今月はヴィヴァルディについてお伝えします。何と言ってもヴァイオリンと言えばヴィヴァルディ!と言っても過言ではないほど筆者も様々なところで演奏しています。「なにゆえヴィヴァルディは明快なのか?」筆者の演奏とピアノの音による特製音源と共にお伝えしますので音楽を聴ける環境でお楽しみください。(※ピアノはPCソフトの音なので良い音ではありませんがご容赦ください。)

ではまず冒頭部分をお聴きください。

かの有名なメロディですね!

まず理由として考えられるのは、このメロディの和声はほぼ”主和音”だけだから。和声とは和音の流れ、ハーモニーのこと。そして主和音とは曲が書かれている音階(この場合ホ長調ですね)の最初の音(主音)に付けられる和音を言います。

ではこの曲が主和音だということが分かりやすいように、ちょっといじってみます。メロディは変えずに伴奏のリズムを変えただけで音は同じです。

ほら、ずっと同じ和音、ミソシじゃない?たまにシレファが出てきます。主音というのは文章で例えると”私”のようなニュアンスかな?シレファは”あなた”です。だからこれって、ずっと「私」って言っているようなものなのですね。「わたし!私!ワッタッシ~、あらあなたもいたのね、わったし今日も楽しいな~!私のための良い天気!!」このくらい押しが強い”私”。ちなみに出だしのミの音が主音なのですが、実は主音から始まる曲ってそう多くない。なぜなら、これぞ王道といった雰囲気になるので少しお洒落な雰囲気にしようと思ったら違う音から始めるものなのですね。加えてクラシック音楽の基本形というのは、私→あなた→私です。そこに彼女や彼やあそこも過去も出てくるものなのですが、私しかほぼ出てこないこのメロディ。裏表がないとは正にこのこと。いわゆる四大ヴァイオリン協奏曲で1楽章のメインテーマが主音から始まるものはブラームスの協奏曲だけでした。

余談ですが、戦前のベルリンフィルコンサートマスターだったシモン・ゴールドベルグというヴァイオリニストがアメリカ人のことを「アメリカ人というのは私、私とうるさい。」とこぼしていたそうです。そういえば筆者もよく「私、私」と言っているそうですが、それは中学時代をボストンで過ごしたせいなのか、そうではなく生来の気性ゆえな気が致します……(きっと最近は控えめになっているはず、大人だから)。

でもこれだけじゃあ、この曲のあっけらかんとした底なしな明るさは説明できません。この続きは次回5/27にお届け致します!

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