春爛漫、入学式のシーズンです。どこの音大でも入学式では学生によるオーケストラで新入生を歓迎する演奏が行われるようですが、筆者の音大でもブラームスやワーグナーの序曲、エルガー『威風堂々』などを演奏したものでした。ということで、今月はブラームス『大学祝典序曲』です。ブラームスといえば秋や冬の寒い時期の響きの濃厚なイメージ、日本の暑い時期の湿度には似合わないような。それはなぜだろう……ということを筆者なりに分析してみた全2回。筆者の演奏とピアノの音による特製音源満載ですので音楽を聴ける環境でお楽しみください。(※ピアノはPCソフトの音なので良い音ではありませんがご容赦ください。)
時はブラームスの円熟期、1880年。2つの交響曲を書き上げ、あの壮大なピアノ協奏曲第2番に取り掛かっている間、ブレスラウ大学から名誉博士号を授与されたことへの返礼として書かれました。大学への作品ということで当時流行していた3つの学生歌を引用し、彼独自の創作と共に非常に面白い作りになっています。かつて交響曲をなかなか発表できない心情を「ベートーヴェンという巨人が背後から行進して来るのを聞くと、とても交響曲を書く気にはならない」と友人に伝えていたという彼。しかしこの作品を聴くととてもそんな弱気な彼には見えません。短い中に彼の手法がギュッと連なり、芸術家としての自信に満ちあふれているような気がします。もうベートーヴェンの足音は聴こえなくなっていただろうな。
では、まず3つの学生歌がこの曲の中で登場する際のメロディをご紹介しましょう。ヴァイオリンだけで弾いています。
学生歌①
学生歌②
学生歌③
ブラームスによるテーマ
この4つのモチーフが作品の大きな要素となっています。特にテーマは大活躍、このリズムには要注意です。
それでは、本記事のテーマでもある「なにゆえブラームスは濃厚なのか?」について展開して参りましょう。
ブラームスの1つの特徴に”1つの小節の中に複数のリズムや拍子が混在する”というものがあります。例えば上記のようなシンプルな学生歌のメロディーの背後の伴奏にいくつものリズムがあったり、2拍子と3拍子が混ざり合っていたり。これは文字で解説するより聴いたほうが分かりやすいですね!
以下は98小節からの一節をいくつかのパターンで音源と楽譜にしてみました。まずは原曲通りの弦楽器群をピアノの音で、第1Vnは筆者の演奏です。ここでは管打楽器は割愛しています。
パターン①

チェロバスが小節線を超える際にタイでつながれていることにご注目ください!
※便宜上譜例には音符とタイ以外の楽語・記号等は記載していません。また97小節の3拍目までは休符としています。
パターン②
ピアノで聴いてもブラームスっぽさが伝わるかな?と思います。では、まずこのチェロバスをよくあるシンプルな動きにしてみます。

チェロバスの音符を減らし、タイもなくし小節ごとに音を変えてみました。
パターン③
では、第2Vnとヴィオラもよくある感じにしちゃって。

ヴィオラが大変身です!
どうでしょうか?2つめ、3つめといくとずいぶんブラームスらしさがなくなってきたような?なんだか音楽の流れも違いますね。
ここで行ったことは、上述の”複数のリズム”を減らしたことです。そして3つめは、こういった躍動感がある場面でよく用いられるリズム形を第2Vn、ヴィオラに入れてみました。ここで特徴的なのは、原曲はチェロバスが4拍目から1拍目までタイでつなげて弾いているということ。低音楽器は1拍目にドーンと構えていてくれると音楽が安定するものですが、前の小節という箱から次の小節の箱まで区切っていないのですね。こうすることで、推進力が出ます。第1Vn、第2Vn、ヴィオラもそれぞれ違うタイミングで音が長めだったり短くなったり。それぞれの違いが百花繚乱のように小節の箱の中で咲き誇っている場面です。この咲き誇り具合がブラームスならではの濃厚な響きを醸し出していると思うのですね。
さて、PCソフトという机上の論理で作られた音を聴かされてお気の毒ですから、ここで人類の至宝ブロムシュテット氏による原曲をお聴きください。上記の学生歌やテーマを探してみるのも楽しいですよ。聴いているだけでスコアが目に浮かぶような、素晴らしい演奏です。(学生歌① 1:39頃~、② 3:23~、③ 8:44~、98小節 2:35~です。)
次回も引き続きブラームスの謎に迫りたいと思います。4/29(水)配信予定です!












