合唱

現場舞台袖ヒリヒリ百景①

~G線上のアリアの場合~

皆様、クラシック演奏家の「現場事情」はご存知でしょうか。いつもサラッと弾いているかのように見えるプロの現場で行われていること……。ここでは、プロでないとなかなか感じられない現場での都合や不都合についてお伝えしていきます。

さて、今回は先日ユアオーケストラで演奏したバッハ作曲管弦楽組曲第3番よりエア(通称G線上のアリア)についてです。

この曲は2つの面で有名で、一つはバッハが書いた原曲である合奏曲。そしてもう一つは19世紀のヴァイオリニスト、ウィルヘルミという人が編曲したヴァイオリン独奏のための曲です。(独奏といいますが実際にはピアノ伴奏がつきます。)バッハが書いた合奏曲が大変美しく素晴らしかったためウィルヘルミが独奏用に編曲したのでしょうが、実は編曲の際に次のようなことが施されました。

  • 調性をニ長調からハ長調に変更
  • ヴァイオリンの一番低いG線一本のみで演奏

これによりとても良い編曲となり、この曲は「G線上のアリア」として広く知られるようになりました。このタイトルもいいですよね。

で、これをヴァイオリニストから眺めてみると。

私が一番気を付けたいのは、音程の取り方です。

独奏の場合、私は自分の音色が際立つようにそれぞれの音程をその音の雰囲気に合わせて取りますが、合奏の場合は溶け込まないといけません。ただでさえ、数多く演奏してきている独奏版での音程が無意識のうちに合奏でも出てきてしまいます。そうすると、合奏としてはうまく合わない。

なので、弾きこんでいる曲であればあるほど、事前に音程をしっかり「調整」する必要があり、これがなかなか大変でもあるのです。もっと上手いプレイヤーの方々はそんなことないのかもしれませんが、不器用な私はそうではなく、一度身に付いたものを変えることは難しいのです。

ちなみに、音の雰囲気に合わせて音程を取るというのは、言葉にすると「広めに取ったり狭く取ったり」となります。音程の間隔を広めにすると豊潤な雰囲気に聴こえたり、あるいは狭くすると内向的な切ない雰囲気が表現できたりするようで……。音程というものは擦弦楽器奏者にとっては永遠のテーマですね。

またこの曲を演奏する機会があったら、どちらの形においても「良い音」を目指したいものです。

1/23 オケの始まり③

彼は病院にいるから、なかなか連絡ができない。携帯電話を使うのも院内では一苦労だ。お互いに着信履歴を残すことで意思を伝え合うようにしていた。彼からの着信があった数秒後内ならまだ彼に電話を取ってもらえる可能性がある。そんな綱渡り状態で連絡を取り合っていた。

「駄目だ。医師から駄目だと言われた」

「昨日、決行すると連絡したばかりですよ」

「わかっている」

彼女は一生懸命考えていた。もう本番1週間前だ。ここで中止にするとしても損失が大きい。お金も機会も次への繋がりも全て失う。

「……最悪、オケだけの映像撮影としますか」

「それでもいい。やらなきゃ駄目だ」

「ですが、最良なのはちゃんとあなたに振ってもらうことです。メンバーもそれを望んでいますし、このオケはそのためのオケです」

「週明けに医師に相談してみるよ」

「そうして下さい。関わっている人たち全てがここにかかっています。このままでは彼らの信頼も失います」

また来た、ずっと頭が締め付けられるこの感じ。これのせいで、寝ていても目が醒めてしまうんだよな……。

そうして迎えた週明け。彼からの連絡を持って改めて決行できることとなったこの演奏会。あまりに激しい展開に彼女も告知や案内がほとんどできず、またコロナの影響もあり数名の指揮体験希望者だけを観客に開催された。オケのメンバーに事の詳細を伝えたらみな驚き、だがとても良い演奏をしてくれた。その後、病院に戻った彼からは喜びの電話がかかってきた。

「とんでもなくレベルが高いメンバーだな!振れて良かったよ!次はベートーヴェンの交響曲7番だ!」

ベト7……いくらかかるかな。ぼんやりと計算しながら彼女は次の指揮希望者との打ち合わせに向かった。あの始まりの日と違い、空は青かった。(終)

オケの始まり①

オケの始まり②