1/23 オケの始まり③

彼は病院にいるから、なかなか連絡ができない。携帯電話を使うのも院内では一苦労だ。お互いに着信履歴を残すことで意思を伝え合うようにしていた。彼からの着信があった数秒後内ならまだ彼に電話を取ってもらえる可能性がある。そんな綱渡り状態で連絡を取り合っていた。

「駄目だ。医師から駄目だと言われた」

「昨日、決行すると連絡したばかりですよ」

「わかっている」

彼女は一生懸命考えていた。もう本番1週間前だ。ここで中止にするとしても損失が大きい。お金も機会も次への繋がりも全て失う。

「……最悪、オケだけの映像撮影としますか」

「それでもいい。やらなきゃ駄目だ」

「ですが、最良なのはちゃんとあなたに振ってもらうことです。メンバーもそれを望んでいますし、このオケはそのためのオケです」

「週明けに医師に相談してみるよ」

「そうして下さい。関わっている人たち全てがここにかかっています。このままでは彼らの信頼も失います」

また来た、ずっと頭が締め付けられるこの感じ。これのせいで、寝ていても目が醒めてしまうんだよな……。

そうして迎えた週明け。彼からの連絡を持って改めて決行できることとなったこの演奏会。あまりに激しい展開に彼女も告知や案内がほとんどできず、またコロナの影響もあり数名の指揮体験希望者だけを観客に開催された。オケのメンバーに事の詳細を伝えたらみな驚き、だがとても良い演奏をしてくれた。その後、病院に戻った彼からは喜びの電話がかかってきた。

「とんでもなくレベルが高いメンバーだな!振れて良かったよ!次はベートーヴェンの交響曲7番だ!」

ベト7……いくらかかるかな。ぼんやりと計算しながら彼女は次の指揮希望者との打ち合わせに向かった。あの始まりの日と違い、空は青かった。(終)

オケの始まり①

オケの始まり②

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